実態が知られていない「モラハラ」
『モラハラ夫と食洗機』の著者で弁護士の堀井亜生さんは、「近年、モラハラ離婚が大幅に増加しています。でもモラハラという言葉がすっかり浸透している反面、その実態はあまり知られていません」と指摘する。特にコロナ禍では夫婦が同じ空間でずっと過ごさざるを得ず、夫のモラハラに我慢の限界を感じた妻による離婚が多発したそうだ。
だが、“モラハラ”という言葉が軽くとらえられるあまり、SOSに気づいてもらえない女性がいたり、「モラハラでは離婚できない」と言われて離婚を諦めてしまったりする人がいるのだという。「そんなことはありません。モラハラでも、諦めずに実証することで離婚はできるんです」(堀井さん)。
モラハラに長らく身をさらしてきた女性は、投げつけられる罵倒の言葉に浸かり切って自分に自信を失い、反撃の仕方どころか逃げ方すらわからなくなっている人が多い。録音・録画など、自分がされていることをそのまま記録し、丹念に証拠を集め、夫の暴言や異常な激高などが日常的であると証明することが大事なのだ。
モラハラとは実際にどういう言動を指すのか。モラハラ夫たちとは、どのような職業や経歴を持ち、どのような共通傾向があるのか。2000件を超える離婚事例を扱ってきたエキスパートとして、堀井さんは著書の中で最新のモラハラ事例を15のタイプに分類。「自分は正しいことを言っている」と信じて疑わないモラハラ夫たちのあきれた言動をつまびらかにし、その裏にある心理や背景を解説している。
「ああ、こういう厄介な男いるよねぇ」と苦々しく思ったり、あまりの滑稽ぶりに大笑いしたり、重苦しくなく軽妙に描かれているので、あっという間に読んでしまった。15タイプに分類される令和のモラハラ夫には、令和ならではのキーワードが3つあるように感じる。
なぜ論破したがるのか
令和バージョンのモラハラ夫、キーワードその1は理屈っぽい「論破」。
先ほどのエセSDGs夫も中途半端な理屈っぽさが印象的だが、夫婦間の会話で妻を論破しマウントを取りたがる「論破履き違えモラハラ夫」がいる。要は相手を言葉で屈服させて自分の思い通りにしたいだけ。ママに向かってイヤイヤを言う延長線上で、妻に向かって幼稚さを大開陳するから実に面倒だ。
本書に出てくる論破夫は、些細なきっかけで妻を責めるようになり、毎日のように説教や暴言を浴びせる。「なんでコーヒーを飲んだらすぐカップを洗わないのか。色素沈着するのを知らないのか」で説教1時間、コンセントの上にほこりがたまっているのを見つけると逆上し「発火の原因になるとわからないなんて、義務教育で何を学んできたんだ」「家を火事の危険にさらした責任をどう取るのか」と説教3時間、といった具合だ。