主人公は「庶民の女で、かつ貧乏」

これが現代の女子マンガとなると、ちょっと事情が違ってくる。まず、少女小説の時代から存在する「良家の子女が貧しい女になる」という転落劇は人気がなくて、男による救済も必須ではない。ベタなシンデレラ・ストーリーは後景に退いており、それに代わって前景化したのが「庶民の女で、かつ貧乏」という設定だ。これが現実のわたしたちと重ねやすい設定なのは言うまでもない。

たとえば、池辺葵『プリンセスメゾン』の「沼ちゃん」こと「沼越幸」は、「年収250万円ちょっと」の居酒屋従業員である。アパートの部屋は畳敷きで、どうやらエアコンがないらしく、夏はかなり寝苦しそうだ。来客時には、ひとつしかない湯飲みを客に差し出し、自分はお茶碗を使っている。

池辺葵『プリンセスメゾン(1)』(ビッグコミックス)

そんな彼女には、マンションを買うという夢がある。お金持ちじゃないから、即決はできない。そのため、モデルルーム巡りを繰り返し、理想の部屋に出会える日を待ち続けている。

あまりに熱心なので、持井不動産の社員である「伊達政一」をはじめとするスタッフたちからも、マンションにすごく詳しい客として一目置かれているほどだ。

居酒屋の同僚は、沼ちゃんがモデルルーム巡りをしていると知って驚く。「モデルルームなんか見ても、空しくないっすかー。」「俺らみたいな収入でマンション買うとか無理っしょ。」「俺らなんかの手の届く夢じゃないっすよ。」「マンション購入なんて、まぼろしっす。まぼろし……」

この社会は庶民を萎縮させるのがとてもうまい。庶民が大それた夢など見るものではない、と抑制モードに入ってしまうのは、彼だけではないだろう。

けれど、沼ちゃんは「努力すればできるかもしれないこと、/できないって想像だけで決めつけて、やってみもせずに勝手に卑屈になっちゃだめだよ。」と同僚をたしなめ、「マンション買うなんて、すごい大きい夢に迷わず向かっていって……」と感心するモデルルームスタッフに「大きい夢なんかじゃありません。自分次第で手の届く目標です。家を買うのに、/自分以外の誰の心もいらないんですから。」と語る。淡々としてはいるが、とても力強い言葉だ。

自分の居場所は自力で手に入れる

大富豪になる大どんでん返しも、苦境から救ってくれる王子様も、沼ちゃんは求めていない。彼女にとって大事なのは、自分の居場所を自力で手に入れることである。

なぜこんなにも居場所にこだわるのか。そこには、幼い頃に両親を亡くし、親戚の家で育てられた過去や、はじめてのひとり暮らしで賃貸物件を借りるのに保証人が必要だった経験が関係している。誰かの助けを借りずに自分の居場所を確保したい。それが彼女の望みなのである。その点、分譲物件であれば保証人を探す必要はなく、自分の力だけで居場所を手に入れられる。

しかも本作は、もともと三井不動産のサイトで連載していたので、沼ちゃんのスペックだとこんな物件が買える、という部分は、かなりリアルに描かれている。フィクションだけれど、真実味があるのだ。