元夫側から嫡出否認を申立

ただ、元夫は生まれた子どもは自分の子どもではないということは断言しています。

鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)
鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)

そこで元妻からの「親子関係不存在確認」の申立を取り下げてもらって、元夫のほうから、この子どもは自分の子どもではないという申立、すなわち「嫡出否認」の申立をしてもらうことが可能であれば、そちらの手続に切り替えるほうが適切に対応できるのではないかということになりました。

幸い元夫は寛容な人で、その申し出にこころよく応じてくれましたので、この子どもについて、法律的に父親と推定される元夫の子どもではないということが確認され、次に実際の父親とされる男性とこの乳児との間でDNA鑑定を行って、父子関係を確認し、認知を行って、この子どもの無戸籍状態が解消されることとなりました。

1例目のケースでは単身赴任中とは言いながら実質的には別居状態に近いときに妻が妊娠し、夫とは別の男性の子どもを出産しています。しかし、同居していても妻が別の男性の子どもを妊娠し出産間近なことに夫はまったく気がつかないというケースもあります。これが2番目のケースです。

読者の方は夫婦関係の不思議さや、協議離婚の落とし穴に気がついていただくことができたのではないかと思います。また、離婚に関して思いもかけない多様なことが起こりうること、そして実際に起きていることについて認識していただけたことと思います。

鮎川 潤(あゆかわ・じゅん)
関西学院大学名誉教授

1952年愛知県生まれ。東京大学文学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科後期博士課程中途退学。博士(人間科学)。専門は、逸脱行動論、社会問題、少年非行、家族問題研究。金城学院大学現代文化学部教授、関西学院大学法学部教授のほか、家庭裁判所家事調停委員などを務めた。現在は、関西学院大学名誉教授。保護司、更生保護施設評議員、学校法人評議員、少年院視察委員会委員なども務める。主な著書に、『犯罪学入門』(講談社現代新書)、『新版 少年非行 社会はどう処遇しているか』(放送大学叢書、左右社)、『新版 少年犯罪――18歳、19歳をどう扱うべきか』(平凡社新書)など。