元夫側から嫡出否認を申立
ただ、元夫は生まれた子どもは自分の子どもではないということは断言しています。
そこで元妻からの「親子関係不存在確認」の申立を取り下げてもらって、元夫のほうから、この子どもは自分の子どもではないという申立、すなわち「嫡出否認」の申立をしてもらうことが可能であれば、そちらの手続に切り替えるほうが適切に対応できるのではないかということになりました。
幸い元夫は寛容な人で、その申し出にこころよく応じてくれましたので、この子どもについて、法律的に父親と推定される元夫の子どもではないということが確認され、次に実際の父親とされる男性とこの乳児との間でDNA鑑定を行って、父子関係を確認し、認知を行って、この子どもの無戸籍状態が解消されることとなりました。
1例目のケースでは単身赴任中とは言いながら実質的には別居状態に近いときに妻が妊娠し、夫とは別の男性の子どもを出産しています。しかし、同居していても妻が別の男性の子どもを妊娠し出産間近なことに夫はまったく気がつかないというケースもあります。これが2番目のケースです。
読者の方は夫婦関係の不思議さや、協議離婚の落とし穴に気がついていただくことができたのではないかと思います。また、離婚に関して思いもかけない多様なことが起こりうること、そして実際に起きていることについて認識していただけたことと思います。
1952年愛知県生まれ。東京大学卒業。大阪大学大学院修士課程修了。専門は犯罪学、刑事政策、社会問題研究。南イリノイ大学フルブライト研究員、スウェーデン国立犯罪防止委員会、ケンブリッジ大学等の客員研究員、中国人民大学等への派遣教授、法務省法務総合研究所研究評価検討委員会委員等を務めた。博士(人間科学)。保護司。著書に『新版 少年犯罪 18歳、19歳をどう扱うべきか』(平凡社新書)、『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)、『腐敗する「法の番人」 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』(平凡社新書)などがある。