役員が誰も株を持っていない会社の株主総会で見えたこと

一方で役員の態度から、その会社に失望するケースもありました。IT部品が祖業で様々な事業を展開してきたR社の株主総会に参加したときです。

この会社はある意味、投資ファンドが支配する格好になっていて、何をしているのか不透明な会社になっていました。実態を知ろうと株主総会に行ったところ、動画を使って「こんな会社になります」と伝える大々的なプレゼンが行われました。

そのプレゼンを見る限り、確かにワクワクするのです。「この会社、とんでもなく成長するんじゃないか?」と、そんな期待を感じさせます。

ところが招集通知に書かれた株主の名前を見ると、役員の名前が1人も載っていません。役員が投資ファンド会社から来ていることがあるとしても、やはり違和感があります。疑念が湧いたので、こんな質問をしました。

「先ほど動画を見せてもらい、将来的に非常に期待が持てそうでワクワクしました。ところが招集通知を見ると、それを実現する役員の持ち株がゼロになっています。これはどういうことですか?」

すると全員が答えに窮し、オロオロしながら「いま弊社に赴任したばかりなので、まだ自社の株を買っていませんが、これから買います」などと言いました。おそらく本心は、会社の内情をよくわかっているから買わないのです。

動画にしても、実際にはやっていない事業を、さもやっているかのように説明しているかもしれません。要は、株主の目をそらすための動画です。

株主総会の議事録に残らないやりとりにこそ価値がある

こうしたことは質問して初めて気づいたことで、株主総会では社長のみならず役員の言動も、その会社を知るうえで重要なことを物語っています。

こうしたやりとりは、おそらく議事録には残りません。先のシフトの佐々木氏の最後のセリフもそうで、このような感想めいたセリフは、総じて議事録には残りません。

渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)
渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)

そもそも株主総会では、議事録の作成が義務づけられていても、公開する義務はありません。つまり株主であっても、見る権利はないのです。会社によっては動画を残すところもありますが、極めて稀なケースです。しかも議事録同様、まず見ることはできません。

株主総会でのやりとりを逐一知ろうと思ったら、実際に参加するしかないのです。よく「ヤフー掲示板」で「今日の株主総会で何を話していた?」などとやりとりしている人を見かけますが、私に言わせれば気になるなら自分で行けばいいのです。

行って初めて佐々木氏のような発言を聞くこともできれば、役員らの無責任体質に触れることもでき、投資するうえで大きな判断材料にできるのです。

渡部 清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾 代表取締役・塾長

1967年生まれ。1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。個人投資家向け資産コンサルティングに10年、機関投資家向け日本株セールスに12年携わる。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始。20年以上の継続中で、2022年秋号の会社四季報をもって、計100冊を完全読破。2013年野村證券退社。2014年四季リサーチ株式会社設立、代表取締役就任。2016年複眼経済観測所設立、2018年複眼経済塾に社名変更。2017年3月には、一般社団法人ヒューマノミクス実行委員会代表理事に就任。テレビ・ラジオなどの投資番組に出演多数。「会社四季報オンライン」でコラム「四季報読破邁進中」を連載。『インベスターZ』の作者、三田紀房氏の公式サイトでは「世界一「四季報」を愛する男」と紹介された。著書に、『会社四季報の達人が教える 誰も知らない超優良企業』(SB新書)、『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』(東洋経済新報社)、『「会社四季報」最強のウラ読み術』(フォレスト出版)、『10倍株の転換点を見つける最強の指標ノート』(KADOKAWA)などがある。

複眼経済塾

複眼経済塾は、「わかりやすく、楽しく、真面目に」投資の方法を教える投資・ビジネスの教習所。全国に1273名(2023年4月1日時点)の塾生が在籍している。渡部清二塾長とトルコ出身の人気国際エコノミスト、エミン・ユルマズ塾頭の指導が直接受けられる。複眼経済塾では、日本株に注目し、座学の講義やワークショップだけでなく、全国で開かれる会社の株主総会、工場、研究所、産業遺産を回り、日本企業や日本の魅力について、五感を駆使して学んでいる。