1回200円の自己負担を無償にすると医療費は10%増加
東京都23区で実施している高校生までの医療費無料化を全国に拡大する案を、参議院で自民党が提出しようとしている。少子化対策の必要性が叫ばれる昨今、子育て世代に対する経済的支援は手放しに肯定されがちである。たしかに子育て世代に対する支援は必要だとしても、医療費無料化が本当に子供、次世代のためになるのかは、一度立ち止まって検証する必要がある。もし、それが逆効果だとしたら、取り返しのつかないことになりかねない。
日本の医療制度では、医療費の自己負担は就学前で2割、小学生以上70歳未満は3割、70歳から74歳は原則2割、75歳以上は原則1割、70歳以上では所得に応じて2割〜3割、となっている。つまり、子供は本来、自己負担は2割か3割だが、多くの自治体で子供の医療費が少額や無料となっているのは、都道府県あるいは市区町村が助成して負担しているからである。これは後期高齢者の自己負担が原則1割とあらかじめ少額に設定されているのとは意味合いが異なる。各自治体の政治的判断が反映されているということだ。
東京都23区では2023年4月から高校生までの医療費が実質無料となっている。これは東京都23区独自の判断だが、自民党案はこれを全国一律に推し進めるというものである。それははたして正しいのだろうか。
行動経済学の「ゼロ価格効果」で無償化を考えると…
ここで、医療費無料化に関して注目すべき論文がある。東京大学の飯塚敏晃教授と重岡仁教授によって2020年に発表された共著論文「Is Zero a Special Price? Evidence from Child Healthcare」である。この論文の主要な知見は以下の4つである。
①「無料」には特別な効果がある
行動経済学で「ゼロ価格効果」と呼ばれる効果が存在することがわかった。ゼロ価格つまり「無料」は特別な価格で、無料から少しでも価格を上げると、病院に月1回以上受診する確率が4.8%減少する。これは自己負担額が10%増した時に受診が9.1%減少するという効果と比較してもかなり大きい効果である。医療費に関しては、通院1回200円の自己負担を無料にすると医療費は一気に10%も増える。