北公次の叫びは性被害の連鎖を止められなかった

しかし、53年前に発売された『少年たち』のサントラ盤のジャケット写真で上半身裸になっている北たちの姿には、ジャニー喜多川が彼らに向けていた性的な視線が反映されているようにも見える。おそらくジャニー喜多川はこの現場にいて、撮影のディレクションをしていたことだろう。欧米なら小児性愛を喚起させる写真としてジャッジされそうなこのイメージが、なぜ日本では良しとされてきたのか。“昔の話”ではなくこのレコードは2007年にCDとして復刻され、現在でも販売されている。

ハラスメントについて語られるとき、よく「今の時代に合っていない」「もうそんなハラスメントをしていい時代じゃない」というフレーズが使われる。それはハラスメントを続けてきた相手には有効な説得方法かもしれないが、真実ではない。人権を尊重し人の心を守るためには、ハラスメントはいつの時代にもしてはいけないものであるし、セクハラ、性加害もいつの世にも許されず、糾弾して責任を追求するべきものであるのだ。

芸能やエンターテインメント業界はどこから間違ってしまったのだろうか。未成年に対する大規模な性加害があったとして、そこで心の傷を抱えた被害者たちを彼らのタレントイメージを損ないようにして救うためにはどんなアクションをすればいいのか。

東山紀之が「ジャニーズという名前を存続させるべきなのかを含め、外部の方とともに全てを新しくし、透明性をもってこの問題に取り組んでいかなければならない」(2023年5月21日放送「サンデーLIVE‼」)と語ったように、解決は簡単ではない。「おれの二の舞にだけはなってくれるな」という北公次の叫びを無視し続けたことが、35年後の今、重くのしかかる。

村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター

1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。