次世代への重圧はより苛酷に

先頃行われた令和になって初めての園遊会でも示されたような、両陛下が国民に寄せられるお優しいお気持ちを、敬宮殿下は誰よりもまっすぐに受け継いでおられる。そうであれば、ご本人のご納得を前提に、是非とも“次の天皇”になっていただきたいと願う国民が多くいても、不思議ではないだろう。

しかし残念ながら、今の制度のままでは、敬宮殿下はご結婚とともに皇室を離れてしまわれることになる。今の皇室典範では、ただ「女性だから」というだけの理由で、皇位の継承資格が認められていないからだ。

さらに、国民の中から女性が皇室に嫁ぐ場合、次代の皇室を支える男性皇族は秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下ただお一人しかおられない。そのため、天皇・皇后両陛下が直面された「男児を産め」という重圧は、さらに想像を絶して苛酷なものとなるだろう。

「お世継ぎづくりが最優先」

すでにこんな声まであがっている。

「皇室においては、お世継ぎづくりが最優先です。……悠仁殿下には……いっそ学校など行かずにいち早くご結婚いただくことが何よりに優先事項ではないでしょうか」(倉山満氏『決定版皇室論』)。

しかし、このような皇室の方々のご人格を平然と踏みにじる言論が横行すること自体、悠仁殿下のご結婚を至難にするのではあるまいか。「お世継ぎづくり」のためだけに皇室に嫁ごうとする女性がいるとは、常識的には想像しにくいからだ。

いつまで旧時代のルールにしがみつくのか

英国では長くエリザベス女王つまり“女性”君主の時代が続き、今はチャールズ新国王つまり“女系”君主の時代に移った。現在、世界中の君主国の中で、一夫多妻制の国を除き、わが国が明治以来、採用している「男系男子」限定という旧時代的なルールをいまだに維持しているのは、人口わずか約4万人ほどのミニ国家、リヒテンシュタインぐらいしかない。

明治時代には側室制度があり、旧皇室典範では非嫡出による皇位継承も認めていた。だが、今はもちろんそのような制度はない。にもかかわらず、一夫一婦制の下では持続困難な男系男子限定ルールに、日本はいつまでしがみつくつもりなのか。

天皇・皇后両陛下が、平成時代にくぐり抜けられたおつらい日々を、次の世代にも繰り返させるのか。

両陛下のご結婚30年に際して、そのご慶事をことほぐとともに、政府・国会で皇室典範の改正が課題とされている今のタイミングだからこそ、皇室の将来のためにどのようなルールが望ましいか、国民としてきちんと考える必要があるのではないだろうか。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録