差別を防ぐ法律が必要な理由

松岡さんによると、日本にはすでに、マイノリティーに対する差別禁止法が複数存在するという。

例えば、障害者差別解消法では障害を理由とした差別を禁止しているし、男女雇用機会均等法では、性別に基づく雇用差別を禁止している。また、アイヌ施策推進法も、アイヌであることを理由にした差別を禁止している。しかしLGBTについては差別禁止をうたうことに対し、自民党内で激しい反発があるという。

「差別禁止法があれば、裁判で根拠になり得るので、被害者救済や権利保護につながります。残念ながら理解増進法ではそうした効果はないので、被害を受けても『理解が足りなくて残念でした』で終わってしまう。被害者は救済されず、差別を防ぐ抑止力が弱いのです」と、松岡さんは語る。

「もちろん、理解を広げることは大事です。しかし、本来法律がすべきは、解雇やサービス提供拒否などの差別的取り扱いを規制すること。まずは『差別をしてはいけない』と法律で示し、そのうえで理解を広げる施策を行うべきだと思います」

また、自民党内の反対派から挙がっている「差別の定義が曖昧だ」という意見には、他のマイノリティーへの差別禁止法と同様に、「合理的理由がない区別」があるかどうかを基準にすれば判断できると反論する。

「例えば、『トランスジェンダーの人は採用しない』というのは、採用基準として合理的な理由にならないので、明確に差別だと言えます。まずは、『差別はいけない』という前提を作り、それから実際に起きている一つひとつの事例について、差別に該当するかどうかを判断していくべきだと思います」と松岡さんは言う。

8割以上は「カミングアウトしていない」

電通が全国20~59歳の計6万人を対象に実施した、2020年12月のインターネット調査では、自分は性的少数者に該当すると回答した人は8.9%だった。 また、2019年に厚生労働省が委託実施した職場の実態調査では、誰か1人にでもカミングアウトしているという性的マイノリティーの人は、2割にも満たないという結果だった。

これまでに行われた他の調査でも、多少ばらつきはあるが、おおむね9~13%がLGBTQと推定されている。これは、「左利きの人」や「血液型がAB型の人」の割合と同じか、それより多いくらいだといわれている。

松岡さんは、LGBTQという言葉の認知は広がっているものの、カミングアウトしている人が少ないために「自分の周りにはいないと思っている人が多い」と語る。

「性的マイノリティーの人たちの多くがカミングアウトしておらず、差別の被害を受けても泣き寝入りしています。実はあなたの大切な友人や、目の前にいる同僚が、差別や偏見で苦しんでいるかもしれない。得意先の人や、家族の一員がそうかもしれない。そんなリアリティーを持ってこの問題を考えてほしい」