ウクライナ人の士気は高く春には反転攻勢に

侵攻から1年が経って、ウクライナの何が変わったかという最初の問題意識にもどれば、一言でいうなら「彼らの士気はますます高まっている」ということ。ゆえに、この戦争の終わりはまったく見えないということだ。これからNATOの戦車が実戦投入されれば、ウクライナは反転攻勢に出られる。局面が動くとすれば、5、6月から夏ごろになる。

40年以上、戦場を取材してきたが、この戦争はアフガニスタンやチェチェンのような局地戦ではない。使っている武器も投入される軍隊の数も違う。10年間続いたアフガニスタン戦争で、ソ連兵の死者は約1万5000人といわれる。今回は正確な数字は把握されていないが、ロシア軍の死者は1年でその約5倍にのぼっている。負傷者を入れれば、その数倍の兵士が使い物にならなくなっていると推定できる。

7万人以上の兵を失っても数で押しきろうとするプーチン

佐藤和孝『ウクライナの現場から』(有隣堂)
佐藤和孝『ウクライナの現場から』(有隣堂)

つまり単純計算すれば、1年前の軍事侵攻時に20万人ともいわれたロシア軍と同数の兵力が、ほぼ壊滅しているのである。それでもロシアの民間軍事会社「ワグネル」が刑務所などからリクルートした傭兵や、急な動員令で訓練が十分でない兵士で穴埋めし、ロシア軍は「数」で押そうとする。

「ネオナチの迫害からロシア系住民を守る」として、プーチン大統領は侵攻を開始した。しかし、今回の取材で改めて目の当たりにしたのは、ウクライナのすべてを破壊し尽くし、文化を根絶やしにしようとする侵略者の暴虐だ。全滅させた地域を再び占領すれば、一から都市計画してロシア化した街に作り替え、そこがウクライナだった痕跡を地上から消し去ろうとするに違いない。

佐藤 和孝(さとう・かずたか)
ジャーナリスト

1956年北海道帯広市生まれ。横浜育ち。ジャパンプレス主宰。山本美香記念財団代表理事。24歳よりアフガニスタン紛争の取材を開始。その後、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、アメリカ同時多発テロ、イラク戦争などの取材を続け、2003年にはボーン・上田記念国際記者特別賞を受賞。著書に『アフガニスタンの悲劇』(角川書店)、『戦場でメシを食う』(新潮新書)、『戦場を歩いてきた』(ポプラ新書)、『タリバンの眼』(PHP新書)など。