具体的な経営数値を
皆で共有することが重要

それでは組織の体質改善へ向け、経営者は何から始めればいいのか──。堀氏が指摘する要点は2つ。社内制度や業務プロセスの改革を視野に入れたうえでの「リスクのリサーチ」と「成果の見積もり」である。

リスクのリサーチとは「組織運営の根幹にかかわるもので、かつ身近なリスクの把握」だ。例えば、職場にありがちな報告の遅延。「もっと早く聞いていれば……」という経営幹部の嘆きは、現場とトップの意識のギャップに大きな原因がある。その解決策の1つとして、迷ったときこそ報告しろなど、リスク報告のルールを社内に徹底させる。「報告は受け取るものではなく要求するもの」と堀氏は力説する。

「また現場には“思い込み”がはびこっています。例えば、営業マンは売上第一で売掛金の回収は経理の仕事など。そうした営業現場から『取引先の財務状況が悪化している』などの報告が出てくるはずもない。問題を解消するには、具体的なマニュアルとともに、営業トークなどの行動様式を分かりやすく教えること。これで現場はかなり変わるはずです」

次に成果の見積もりだが、これは「成果としての経営数値を可視化する」こと。例えば、コミュニケーションに関する社内制度を改善できれば、情報伝達のためだけの無駄な会議をなくせる。その成果として残業コストの圧縮が具体的数値として期待できるかもしれない。

「業務プロセスの改善へ向けた指標に、『KPI(経営指標)』がありますが、狙いはそれと同じ。PL/BS(損益計算書/貸借対照表)の数値を、もっと身近な数値にブレークダウンする。それぞれのマネジメントの範囲の中で、経営数値に結びつく具体的な指標を設定する。皆で共有できる数字があれば、分かりやすいし、社員のモチベーションのアップにもつながります」

“組織の強度”を上げるため
必要なこととは何か

堀氏の話を聞いていると、リスクは組織内部にあり、しかもその認識には個々のギャップがある、という現実が浮かび上がる。それが企業経営に致命的な結果を引き起こすかどうかは、“組織の強度”により異なる。国際的な競争環境のなかでは、逆にその危機が企業によっては有利なポジションを得る絶好のチャンスとなるかもしれない。その優劣の差を生む分岐点はどこにあるのか。

「基軸となるのは、『コミュニケーションの活性化』と『モニタリング』です。私は組織の非効率化を“社内メタボ”と呼んでいますが、無駄な贅肉を落とすには、コミュニケーションが決定的に重要です。特にマネジメント層の役割が大きい。例えば、部下のちょっとした変化に気づいて声をかける“気づきのトーク”などをコンサルティングでは提案しています。一方のモニタリングについては、先ほど触れたKPIなどの数値に注目して行うこと。積極的にITツールを活用すべきでしょうね」

堀氏はIT活用の“ツボ”を、「I・C・M」と表現する。「インフォメーション&コミュニケーション&モニタリング」だ。このI・C・Mを社内に構築し運用していくことで、リスクマネジメントに生かしていく。

「リスク管理の基準と手順を分かりやすくまとめる。その運用をモニタリングし、共有できるデータとして記録する。これを継続するだけでも、リスクに強い組織になり、職場の利益体質化にもつながります」と堀氏。悪いことは起こるもの。この前提がリスク管理の出発点だ。そしてそれをネガティブではなくポジティブに捉え直す。不況やトラブルに強い会社は、それに気づいている。