マスメディアの“言いがかり”

マスメディアはどんなに良い制度ができても、アラ探しをしがちです。今回も「360万円まで枠が増えたというが、生涯投資枠が1800万円だったら5年で使い切ってしまう」とか、「積み立てによる資産形成促進と言いながら成長投資枠のほうがつみたて投資枠の倍も多いのはおかしい」みたいなコメントも散見されます。しかしながら、それはさすがに言いがかりに近いと私は思います。

なぜならそもそも毎年360万円も投資できる人なんて、世の中にはそれほどいません。実際に、証券投資信託協会が2022年3月に公表したアンケートによればどれぐらい積立て投資をしたいかという希望額は平均で月額1万8000円でした(※)。枠だけで言えば現行制度でも足りる金額なのです。したがってこれだけ枠があれば普通の人なら生涯積み立てすることのできる金額としては十分だと思います。なるだけ若いうちから積み立てを始め、余裕ができてくれば積み増しをすることもできるでしょうし、何らかの事情で積み立てができない時期があっても後に可能になったら、それまでできなかった分をキャッチアップすることだって可能です。そのためにこれだけの枠が決められているのです。

また、生涯投資枠の1800万円のうち、成長投資枠が1200万円となっていますが、生涯投資枠の全部を積み立てに使ってもかまいません。自分自身で将来のために積立投資を始めるには、今回の制度改正はとても良いチャンスだろうと思います。

値動きするチャート
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです

「金持ち優遇説」は的外れ

今回の制度を「金持ち優遇」と批判する人もいますが、これも的外れな批判です。なぜなら本当の富裕層にとって、生涯投資枠1800万円などというものはささいな金額に過ぎません。この制度の本質は多くの中間層の人たちを豊かにするための制度なのです。

ただ、今回の制度改正はあくまでも器を立派にしたということであって、その器に入れるお金がない人にとってはあまり関係ありません。したがって大事なことはもっと給料が上がること、特に若くて収入の少ない人の収入を増やしていけるようにすることです。でもこれは制度を作った金融庁にはあまり関係のない話で、日本の企業全体がもっと成長し、高い給料が支払えるような経営者が増えてくれることが大事なことなのです。

しかしながら、そうやって経済が成長するためには投資を通じて企業にお金を回していく必要があります。したがって多くの中間層の人たちにとってNISAが大きく拡充されたということは、将来の自分の資産形成になるだけではありません。積極的に投資することによって世の中にお金が回ることが、まだ十分な所得のない人に対しても大きな支援になるということは知っておいても良いことではないでしょうか。

※証券投資信託協会「投資信託に関するアンケート調査報告書-2021年(令和3年)NISA,iDeCo等制度編

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。