2024年から始まる新しいNISAの概要が明らかになった。これまでの制度と何が違うのか。経済コラムニストの大江英樹さんは「これまでの制度は複雑怪奇な温泉旅館のようなつくりだった。今回の改正で館内がわかりやすくなると同時に建物自体も大きくなり、利用しやすくなりました」という――。
木製ブロックで「NISA」の文字
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新しいNISAの概要が決定

2024年から始まる新しいNISAの概要が決まりました。少し前から「資産所得倍増プラン」の具体策の一つとして、NISAの大幅拡充が言われていましたが、12月16日に自民・公明両党の税制改正大綱で正式に決定されたことで、その内容が明らかになりました。細部についてはまだ見えない部分はあるものの、全体像についてはおおむね固まったと言って良いでしょう。具体的にどう変わるのか、そしてそれに対して現時点ではどのように考えて活用すれば良いのかについて今回はお話をしたいと思います。

まず、そもそもNISAとはどういう制度かということですが、これは2014年から始まった制度で正式には「少額投資非課税制度」と言います。名前の通り、投資したことで得られる利益に対して税金がかからないという仕組みで、個人が投資を通じた資産形成を支援するための仕組みとしてスタートした制度です。当初始まった「一般NISA」に加えて、その後未成年者を対象とした「ジュニアNISA」や少額からの長期・積立・分散投資を支援するための「つみたてNISA」も相次いで誕生しました。

複雑怪奇な温泉旅館のような制度だった

ただ、従来の制度は「投資可能期間」や「非課税適用期間」が制度によって異なり、かつ期間限定の制度であったため、少し複雑であったことは否めませんでしたし、利用者の間には「わかりにくい」という声が出ていたことも事実です。いわば古い温泉旅館を建て増しして間取りがとてもわかりにくくなっていたようなものでした。さらに現行の一般NISAとジュニアNISAは2023年で制度が終了するものの、一般NISAについては、2階建てにして期間を延長するという方向が当初打ち出されましたので、さらに複雑怪奇な温泉旅館に改装される公算が大だったのです。

ところが今回の新しいNISAは、それまでの古い温泉旅館とは別に全く新しい立派なホテルを建てたようなものです。非常にスッキリして館内がわかりやすくなると同時に建物自体も大きくなりましたので、利用しやすくなったのです。ではどう変わるのかをここから具体的にお話していきます。

新制度の3つのポイント

(1)制度の恒久化でいつからでも、いつまでも投資できる

今までの口座開設期間は一般NISAが2023年まで、つみたてNISAは2042年まででした。新しいNISAではこれが無期限になります。つまりいつからでも、そしていつまでも投資を続けることができるということです。さらに非課税で運用できる期間は従来、一般NISAが5年、つみたてNISAは20年でしたが、新しい制度ではこれも無期限となります。つまり永久に非課税で運用ができるということになるのです。これは画期的なことですね。

そして二つのNISAは一つの口座で一体化されますが、その中で「成長投資枠」と「つみたて投資枠」という2種類ができます。わかりやすく言えば「従来の一般NISA」≒成長投資枠であり、「従来のつみたてNISA」≒つみたて投資枠と考えれば良いでしょう。従来同様、成長投資枠では投資信託に限らず株式への投資もできますが、つみたて投資枠では従来のつみたてNISAと同じ投資信託が対象ということになるようです。

(2)投資枠が大幅に拡大

従来は一般NISAが120万円、つみたてNISAは40万円というのが一年間の投資限度額でした。したがって一般NISAの場合は120万円×5年=600万円、つみたてNISAは40万円×20年=800万円が投資できる上限だったわけです。しかも一般とつみたての両方はできず、どちらかを選ばなければなりませんでした。ところが新しいNISAでは年間投資限度額が成長投資枠で240万円と倍増、つみたて投資枠では120万円ですから3倍増となり、しかも両方とも利用することができるため、年間投資可能額は一挙に360万円と大きく広がります。ただし、期限は無期限と言っても「生涯投資枠」を設定するため新しいNISA制度を使って投資できる上限の金額は1800万円となります。うち、成長投資枠は1200万円までです。

【図表】新しいNISAと現行制度の比較
(3)これまでNISAやつみたてNISAを利用してきた人は…

では今までNISAやつみたてNISAをやっていた人はどうなるのかというと、投資できるのは2023年、つまり来年で終わりますが、非課税期間は新しい制度の枠外となるため、当初のまま続くことになります。

例えばこれまでつみたてNISAをもし上限の40万円で5年間やっていた人は、既に積み立てた200万円分は、新しいNISAとは別に当初の非課税期間である20年間はそのまま非課税での運用が続けられるということになるわけです。これは今までやっていた人には良いお知らせですね。

ただしこれまで投資してきた分を新しいNISAに移すこと(ロールオーバー)はできませんので、非課税期間が終わったこれまでの分は課税口座に移すか、売却することになります。

細かい部分はまだいろいろとありますが、大枠はこんなところです。

マスメディアの“言いがかり”

マスメディアはどんなに良い制度ができても、アラ探しをしがちです。今回も「360万円まで枠が増えたというが、生涯投資枠が1800万円だったら5年で使い切ってしまう」とか、「積み立てによる資産形成促進と言いながら成長投資枠のほうがつみたて投資枠の倍も多いのはおかしい」みたいなコメントも散見されます。しかしながら、それはさすがに言いがかりに近いと私は思います。

なぜならそもそも毎年360万円も投資できる人なんて、世の中にはそれほどいません。実際に、証券投資信託協会が2022年3月に公表したアンケートによればどれぐらい積立て投資をしたいかという希望額は平均で月額1万8000円でした(※)。枠だけで言えば現行制度でも足りる金額なのです。したがってこれだけ枠があれば普通の人なら生涯積み立てすることのできる金額としては十分だと思います。なるだけ若いうちから積み立てを始め、余裕ができてくれば積み増しをすることもできるでしょうし、何らかの事情で積み立てができない時期があっても後に可能になったら、それまでできなかった分をキャッチアップすることだって可能です。そのためにこれだけの枠が決められているのです。

また、生涯投資枠の1800万円のうち、成長投資枠が1200万円となっていますが、生涯投資枠の全部を積み立てに使ってもかまいません。自分自身で将来のために積立投資を始めるには、今回の制度改正はとても良いチャンスだろうと思います。

値動きするチャート
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「金持ち優遇説」は的外れ

今回の制度を「金持ち優遇」と批判する人もいますが、これも的外れな批判です。なぜなら本当の富裕層にとって、生涯投資枠1800万円などというものはささいな金額に過ぎません。この制度の本質は多くの中間層の人たちを豊かにするための制度なのです。

ただ、今回の制度改正はあくまでも器を立派にしたということであって、その器に入れるお金がない人にとってはあまり関係ありません。したがって大事なことはもっと給料が上がること、特に若くて収入の少ない人の収入を増やしていけるようにすることです。でもこれは制度を作った金融庁にはあまり関係のない話で、日本の企業全体がもっと成長し、高い給料が支払えるような経営者が増えてくれることが大事なことなのです。

しかしながら、そうやって経済が成長するためには投資を通じて企業にお金を回していく必要があります。したがって多くの中間層の人たちにとってNISAが大きく拡充されたということは、将来の自分の資産形成になるだけではありません。積極的に投資することによって世の中にお金が回ることが、まだ十分な所得のない人に対しても大きな支援になるということは知っておいても良いことではないでしょうか。

※証券投資信託協会「投資信託に関するアンケート調査報告書-2021年(令和3年)NISA,iDeCo等制度編