男性が構造的優位を乱用しないためにできること
【澁谷】とすると、どのような社会的条件があれば、男性が優位な立場に立てて、劣位にある相手に対して暴力的に振る舞える場がつくられるのか、それをどのように変えればいいのかが、次なる問いとして出てくると思うんですが、この点、いかがでしょうか?
【平山】そうですね。その場合、男性は、自分より劣位にある人に対して、やりたいようにできる相手だと認識して振る舞っているわけですよね。だとすれば、暴力を振るいそうになったとき、自分の意思で止められないものなのか、踏みとどまって考えてほしいですね。
【澁谷】でも、いまのお話だと、暴力を誘発するような、構造的な条件があるわけですから、自分の意思で暴力を抑え込むのは難しいのでは?
【平山】その構造を乱用しない、というオプションもあり得るわけじゃないですか。
たとえば、上司から部下への抑圧的な言動は、立場上、部下が口答えすることが難しいからこそハラスメントになる。立場の優劣がある状況で、「相手は口答えしにくいだろうから、言いたいだけ言ってしまおう」というオプションをとると、ハラスメントになります。でも、上司には別のオプションもとれるはずなんです。つまり、「相手は立場上、口答えしにくいだろうから、こちらも言い過ぎないようにしよう」と、言い方や言うことを控えめにするオプションです。
【澁谷】なるほど! 平山さんは構造的な条件に注目されているので、個人でできることは少ないのかなと思ってしまったんですけど、むしろたくさんあるということですね。
【平山】はい。自分が優位に立ってしまうことは、自分の意思ではどうにもできない、構造の問題かもしれません。でも、その優位を利用するかしないかは、自分の意思で選択できます。優位を乱用しない、というオプションを選ぶのは、それほど難しいことではないはずです。だから、構造的に与えられた自分の優位、あるいはマジョリティとしての自分の立場を、「呪い」のように思って嘆くひまがあったら、「その優位を使わない手だてを、まずは考えなさいよ」と言いたいです。