「皇嗣」ではなくなる可能性も

秋篠宮殿下が即位されない可能性は極めて高い。しかも、側室制度がとっくに過去のものとなり、歴代天皇のおよそ半数を占めた側室から生まれた非嫡出子・非嫡系子孫による皇位継承が除外された条件下で(過去の実例で天皇の正妻が男子を生まなかった割合は35.4%)、「皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇へのみちを開くことが不可欠」(「皇室典範に関する有識者会議報告書」〔平成17年[2005年]〕20ページ)である以上、現在の「男系の男子」限定という継承ルールを真正面から見直すことは避けられない。その制度改正に手を着ければ、秋篠宮殿下は直ちに皇嗣ではなくなられる。

先に見たように、そのことを誰よりもよく分かっておられるのは秋篠宮殿下ご自身だろう。にもかかわらず、ルールの見直しに踏み込む前に、きちんとした展望もなく東宮御所並みの秋篠宮邸改修工事を行うなどした政府は、いったいどういうつもりだろうか。

最も心配なのは、皇嗣職の設置や巨費を投じた改修工事などをすでに終えたことから、行動経済学が指摘する「サンクコスト(埋没費用)効果(※) 」によって、肝心な皇室典範の改正を秋篠宮殿下の皇嗣としてのお立場を“変更しない”範囲内にとどめるという、安易な弥縫びほう策に政府が逃げ込むことだ。それでは本末転倒になってしまうし、皇室の危機は深まるばかりだ。

※サンクコスト効果:もはや取り戻すことができない、過去に支払ったコストを惜しみ、さらなる投資は損失になるのにも関わらず、そのまま不合理な判断を続けてしまう心理効果。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録