幼いころの子どもと今の子どもに線引きを

子どものころは「聞いて、聞いて!」とまとわりつき、何でも話してくれた息子がろくに口を利いてくれなくなった――。お母さんの不安も分かりますが、思春期の子どもは親の知らない所でどんどん社会と接点を持っていきます。

そして、ひと時も止まらず、成長していきます。時は過去には戻りません。この世のものはすべて移りゆくもの、まさに諸行無常しょぎょうむじょうです。親の方は、子どもの小さい時の姿をよく覚えているので、つい「前はもっと話してくれたのに」「聞いたことにはちゃんと答えていたのに」と、今の様子と比べてしまいます。「それが成長なのだ」と頭ではわかっていても、やはり目の前の子どもが変わっていくことに、不安を感じることがあるかもしれません。お母さんには、「心の中の思い出をきちんと整理して、幼く、素直だったころの子どもと、今目の前にいる子どもをきちんと線引きすること。そして、比較しないことよ」とお話しました。

以前、ある教育関係者からこんな話を聞きました。「人見知りは、よりよく生きるために必要なものです。赤ちゃんも8カ月ぐらいから最初の人見知りが始まります。もし、今までおとなしく抱っこされていた赤ちゃんが、あなたが抱き上げた途端大泣きしてしまったとしても落ち込まないでください。『この子も少しずつ成長しているんだな』と思って喜んであげてください」と。

子どもの気持ちは全部分からないくらいが当たり前

私はお母さんにこの話をしてから、「Aくんも成長して親離れが始まっているということ。『何を考えているのか分からない』と不安がっていても、息子への苦手意識が育ってしまうだけ。お母さんもあまり頑張りすぎず、『息子の気持ちなんて、全部分からなくて当たり前』ぐらいのスタンスで、肩の力を抜いて」と伝えました。

その一方で、「子どもの小さな変化、特に悩み事を抱えているといった変化には、気づいてあげられるようにしてほしい。親には素直になれなくても、私のような他人には素直に話せることもありますから、第三者に入ってもらうのも手ですよ」と伝えました。

友達にケガをさせてしまったのは良くないことです。しかし、Aくんが親から見放されたように感じて寂しさを抱えていたことも事実です。お母さんにとっても、成長していく息子とこれからどう向き合っていくか、考えるよい機会になったのではないかと思います。