いきなり廃止すると取り残される人が出てしまう

配偶者控除を見直すにあたってもうひとつ注意しておきたいのは、この制度がなくなると困る人もいるということです。非正規から正社員になれないまま税負担だけが増えて、家計が苦しくなる家庭もあるでしょう。また、フルタイムで働きたくても育児や家族介護、あるいは自らの体調などの事情で実現できず、専業主婦を選ばざるを得ない人もいます。

配偶者控除を見直すなら、前者に対しては非正規から正社員への壁を取り払う、後者に対してはほかのかたち、たとえば諸手当で支援を手厚くするといった施策を同時に実行すべきです。そうした環境をつくらないままいきなり配偶者控除を外せば、必ず取り残される人が出てしまいます。

第3号被保険者制度の見直しも進む可能性

仮に配偶者控除が見直される場合、第3号被保険者制度についても並行して見直しがさらに進む可能性があります。この制度は、厚生年金に加入している人の扶養する配偶者が、保険料を払うことなしに年金を受け取れる制度です。

白書では「税制、社会保障制度、企業の配偶者手当といった制度・慣行が、女性を専業主婦、または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因ではないかと考えられる」と書かれています。「男性稼ぎ手+主婦」世帯を「昭和のレガシー」としたうえで、全体的に構造を変えていきたいという思惑があるわけです。

ただ、ここまでお話ししてきたように、配偶者控除制度や第3号被保険者制度などを見直したからといって、本当の意味での女性の職場進出が進むとは思えません。正規雇用と非正規雇用の間の高い壁がある以上は、制度をなくしても、その成果が出てくるまでに時間がかかりすぎて、施策としては物足りないと感じます。

予算を考えるカップル
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「女性の自立」のために何が必要か

本当に女性の自立を考えるのなら、本来は非正規社員と正社員の圧倒的な賃金差を何とかすべきです。現状は非正規では自立に十分な収入が得られず、しかも非正規から正社員への道には高い壁が立ちはだかっています。

圧倒的な賃金差を縮めないまま、税制や社会保険制度だけを動かしても真の女性活躍は望めないでしょう。私たちはこの大事な論点をしっかり見つめ、そして国に伝え続けていく必要があると思います。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。