悩みを解決してくれる、同じ時代を生きた仲間

そんな悩みをわかってくれるのは、やはり同じ時代を生きてきた仲間です。ですから最近はクラス会に出席して、さまざまな生き方をしている昔の仲間と若い頃抱いていた夢の話をしたり、今思うことを語り合ったりして、若い人たちに自信を持って渡せる社会にするために自分のできることを探していこうとしています。

中村桂子『老いを愛づる 生命誌からのメッセージ』(中央公論新社)
中村桂子『老いを愛づる 生命誌からのメッセージ』(中央公論新社)

中島みゆきさんが好きなので、『時代』はよく歌います。ピアノの先生にお願いして弾き語りも楽しみました。

どんな「時代」に生きても「そんな時代もあった」と思える、大変な時は誰にもありますよね。「だから今日はくよくよしないで 今日の風に吹かれましょう」というのは、私だけの小さな悩みで困っている時にも、今の社会はダメだなどと大きなことを考えている時にも共通する大事な気持ちです。

くよくよしても仕方がない。私の中になんとかよいところを探してごらんと言われれば、いつまでもくよくよせずに忘れるのが上手なところかなと思います。

そんな気持ちで、同じ時代を生きた仲間と共通の価値観の中で大事なことを見つけ、次の世代のために何かをするのが、年齢を重ねた者の役割ではないでしょうか。

それぞれの年齢の自分を楽しむ

生きていく中で、年をとるということほどはっきり決まっているものはありません。一年経ったら必ず年齢は一つ増えています。どんなにお金を積んでもこればっかりは止められません。

私は生きものの研究をしているものですから、生きものはいつだって先がどうなるかがわからないものだと思わされることが多く、事実毎日の暮らしでもそう感じることが少なくありません。

その中で、年齢だけははっきりしているわけですが、困ったことに、これが実生活の中ではあまり嬉しくないものになっています。赤ちゃんのように成長している時は先が楽しみですけれど、ある時を過ぎてからは、昨日までできていたことができなくなるなどということが起きて、老化に向き合わなければならないからです。そこで、なんとかこれに抗おうとして、いわゆるアンチエイジングの努力をすることになる。これがよく見られる流れです。でも考えてみると、50歳代、60歳代、70歳代……とそれぞれの年齢の自分は一度しか味わえないのですから、その時を楽しむ方が人生を充分味わったことになるのではないかしら。そんな風に考えています。

中村 桂子(なかむら・けいこ)
JT生命誌研究館名誉館長

1936年東京生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了。国立予防衛生研究所をへて、71年三菱化成生命科学研究所に入り、日本における「生命科学」創出に関わる。しだいに生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始することになった生命科学に疑問をもち、独自の「生命誌」を構想。93年「JT生命誌研究館」設立に携わる。早稲田大学教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。