新人社員が入社直後に教えられる、ビジネス用語。無意味な慣用句のような類いばかりで、当時は違和感を覚えたという電通コピーライターの勝浦雅彦さん。しかし、今は「仕事の上で自分の行動の根幹をなす“言葉”は同僚やビジネスパートナーをつなぎ、自分の価値を高めていくためにある」と考えている。その理由とは――。

※本稿は、勝浦雅彦『つながるための言葉 「伝わらない」は当たり前』(光文社)の一部を再編集したものです。

壇上でプレゼンしながら手で示す自信に満ちたビジネスマン
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なぜ普段と違う言葉遣いが必要なのか

ある時、新人研修のサポート係をしました。ビジネスの場において必要なマナーや会社の基礎的な情報(歴史・業務・ステークホルダー)を学ぶために多くの時間が費やされるわけですが、まず多くの新入社員が取り組むのはビジネスにおける言葉遣いです。

「いつも大変お世話になっております」「かしこまりました」「ご用件をお伺いしてよろしいでしょうか」などといった言葉を習います。

しかし私は新人の頃ずっと疑問に思っていました。場面、場面で適切な言葉は「そういうものだ」と教われば、確かに「そんなものだろう」と理解はできます。でも「なぜ、社会人になったらいきなりそういう言葉遣いをしなければいけないのか」を誰も教えてくれなかったのです。

たいてい、そういうことを聞くと、講師の方々は、進行を妨げられて不機嫌になるか、困った顔をしたものです。なぜビジネスの現場ではそんな普段と違った言葉遣いをしなければならないのか? 不自由さの中に身を置かなければならないのか? このルールは何のためにあるのか?

サポート業務をこなしながら、新入社員の行動を観察していた時に、ハタと思い至ったのです。ビジネスにおける言葉は、「投資」なのだということを。

仕事の上で、自分の行動の根幹をなす「言葉」は、同僚やビジネスパートナーをつなぎ、自分の価値を高めていくためにあるのです。

その始まりが、電話応対であり、名刺交換であり、メールでの言葉遣い。これを知らないと、悲しいことに一定数の人々から、「常識を知らない」「礼儀をわかっていない」とウィンドウを閉じられてしまうことになります。それを避けることが新入社員にとって最初の「言葉の初期投資」だったのです。もちろん投資ですから見返りがあります。言葉遣いやそれに伴った立ち居振る舞いが身についていれば、覚えもめでたくなりますし、その後の仕事もスムーズになります。