※本稿は、谷口真由美『おっさんの掟 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
邪魔をするのは「変化をこばむおっさんたち」
日本ラグビー協会にかかわった2年間、私はつねに違和感を持っていました。
組織を変えるために呼ばれたはずなのに、そのためにいくら意見を言っても、新たな施策を提示しても、「変化をこばむおっさんたち」にことごとく邪魔されてしまうのです。
積極的に改革を推し進めるよりも、これまでの慣習に従い、協会の実力者や強豪チーム・大企業の意向に逆らわず、ひたすら従順であることが良しとされる――私がやろうとしたことは、ラグビー界の「同調圧力」とも呼ぶべき古い体質にことごとく跳ね返されてしまいました。
各チームとの交渉では「現状を変える意味がわからない」と取り合ってもらえないことが多く、なかには「企業の方針ややり方に口を出されると会社幹部の機嫌を損ねてしまう」と、ラグビー界の未来よりも「組織の論理」を優先する人たちもいました。それはラグビー協会内部も同様です。責任をとりたくない「おっさん」たちが、上役の顔色を見て黙り込み、外部や若手からの改革案をスルーする――そんな光景が何度も繰り返されました。
繰り返される「失敗の本質」
ラグビー協会のそんな姿を見て思い出したのが『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎の共著、中公文庫)という名著です。1984年に出版されたこの本は「なぜ日本軍は太平洋戦争で度重なる失敗を犯してしまったのか」を組織のあり方から細かく分析し、現在でも版を重ねるロングセラーとなっていますが、私のラグビー協会での経験は、この本で示された「日本軍」と重なる部分が非常に多いと思います。
合理的思考よりも優先される年功序列主義、それに伴う上長への行き過ぎた配慮、曖昧な命令による組織の迷走――。いずれもラグビー教会で目にした光景です。ワールドカップで南アフリカ(2015年)、アイルランド、スコットランド(2019年)という強豪を撃破したことで慢心してしまった点も、日清戦争、日露戦争で勝利を収めた“成功体験”から悲惨な太平洋戦争に突き進んだ日本軍を想起させました。
こう話すと「ラグビー協会はなんて古臭い組織なんだ」と思われる方も多いでしょう。しかし、このような組織の硬直化は、なにもラグビー協会に限った話ではなく、日本の津々浦々で起きているのではないかとも感じます。
ラグビー協会理事を退任してから、組織の中で働く女性や若者たちとさまざまな情報交換をしてきました。その中で多く聞かれたのは、「谷口さんの経験は特殊なものじゃない。私も同じような悔しい目に遭ってきた」という意見でした。組織内で若手や外部の人間が改革を志しても、中間管理職以上の「おっさん」たちによって、実のある議論は封じられ、出る杭は打たれてしまう。女性や若者たちは、そうしたことはどんな組織でも多かれ少なかれ起きていると言うのです。とくに長い歴史と伝統を持つ企業や組織ほど、そのような傾向は強いという話でした。