19世紀アメリカから始まったM&A

まず世界に目をやりましょう。M&Aの先駆けとなったのは、19世紀アメリカにおける石油業界(スタンダード石油)や鉄鋼業界(USスチール)における「独占企業の形成」です。確かにこの時代、市場独占の手段としての同業他社の吸収合併(つまりM&A)は多く、私も予備校の講義の余談として、19世紀末のアメリカンタバコ社による独占の話(20年間で250社ものたばこ会社を吸収し、市場占有率は80%に達した)などをします。

ただし、M&Aの目的が市場独占となると社会的弊害が大きいため、アメリカでは1890年にシャーマン法、1914年にクレイトン法という名で「反トラスト法」(=米の独占禁止法)が整備され、それぞれ適用対象となりました。ちなみに、私の余談に出てきたアメリカンタバコ社も、1907年シャーマン法違反で解散命令が出されています。

キューバの公式税ステッカーとヴィンテージ木箱の葉巻
写真=iStock.com/daboost
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その後もアメリカでは、何度かM&Aブームがありますが、今日のマネーゲーム的なM&Aブームを除くと、そのほとんどは「厳しくなっていく独禁法とのいたちごっこ」のようなブームであり、「あわよくば市場の独占・寡占」をめざすものがほとんどでした。

これに対し、戦前の日本で盛んに行われたM&Aは、少し趣旨が違いました。当時の日本は国際競争力が弱かったため、M&Aもアメリカのように「強い企業がより強くなる」ためではなく、「弱い企業が少しでも国際競争力を高めるために、企業基盤を強化する」ことを目的に行われていたのです。