買ったら持ち続けるべき納得の理由

投資に関する書籍の中では不朽の名著のひとつと言われている『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス著)という本があります。その中にこんな事実が綴られているのです。

アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の1982年から2000年までの18年間にわたる値動きを詳細に調べてみると、18年間(=6570日間)の内、最も株価が上がった上位30日だけで実に上昇幅の4割近くを占めているのだそうです。つまり、もし仮にその30日間だけS&P500に投資する投資信託を持っていたら、ごく短期で大幅な利益を得ることができたものの、もしその30日間、市場に居なかったら(保有していなければ)収益の4割は失われたことを意味します。

ところがこの30日間がいつなのかは事前には絶対にわかりません。それにこの30日間というのは連続しているわけではありません。18年間の間、ところどころに散らばっているのです。したがって、この30日間を逃さないようにするためには持ち続ける、すなわちずっと「市場に居続けること」が大切なのです。最近のコロナ禍におけるStay at Homeをもじって言えばStay in the Marketという知恵を持つことが重要ということになります。

30年間積み立てていれば約4倍に

また、これは投資信託に限らず株式でも同じことであり、投資において最もやってはいけないことは、暴落した時に売ることです。これは評価損が実現損に変わるだけでなく、そういう場面で売ってしまうと、なかなか市場に戻ることができなくなるからです。したがってその後に株価が回復する局面での収益も逃してしまうことになります。本来なら2番目のポイントでお話ししたように暴落時は「買うこと」が必要なのですが、勇気を出してリスクを取りに行くことができないのであれば、せめて売らずに我慢するという行動だけでも良いと思います。

前述したように投資信託の最も大きなメリットは分散投資でリスクを下げることにあります。ところが大きなリターンを得ようとすればそれなりにリスクを負わなければ不可能ですから、本来的には投資信託は「億り人」になるための方法としては必ずしもベストであるとは言えません。しかしながら、過去30年にわたって、毎月1万円ずつグローバルに分散する投資信託を積み立てていれば約4倍となっています。

1991年3月から2021年3月まで30年間、1万円の積立を続けた場合の積立額累計は360万円ですが、2021年3月時点での評価額は1421万円です。仮に積立額を毎月5万円でしていれば7100万円になります。これは世界中に分散投資をした結果ですが、もし仮にアメリカのS&P500だけに投資をしていれば更に増えていたかもしれません。

このように、たとえ投資信託のように個別株に比べて価格変動のブレ具合がそれほど大きくない投資手法でも①投下金額を増やすこと、②暴落した時に買い増しをすること、そして③保有し続けることによって、一定の成果を出すのは可能と考えて良いでしょう。投資信託だけで億り人になるためには、ある程度の資金を投入することが必要ですが、長期の構えで運用することによって十分可能性はあると思います。本書では実際に投資信託で億り人になった人の実例も紹介します。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。