「ガマンしなさい」で協力する力は育たない

もう1つ親が子どもに言いがちなセリフに「ガマンしなさい」があります。

平本あきお 前野隆司『幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)
平本あきお 前野隆司『幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)

多くの子どもは、幼稚園や保育園に通い始めるまで、自分の望みはほぼすべてが叶えられる、愛情100%の世界だけで生きています。しかし、同じような年代の子どもが大勢いる空間では、それまでのような愛情や注目を集めることはできません。

最初は先生に対しても親と同じく「自分のためだけにいる存在」という前提で接してしまうので、他の子に構っているだけで「私は?」とすねるか、泣くか、妙におとなしくなってしまうということが起きます。おもちゃも全部自分のモノという感覚なので、「今、遊びたい」しか考えられず、「他の子と一緒に遊びましょうね」という意味がわからないのです。

こうした場面で出やすいのが「ガマンしなさい」という言葉です。

しかし、アドラーは「ガマンしなさい」とは言いません。

なぜなら、子どもに育んでほしいのは「自分のしたいことをガマンする」ことではなく、「自分にしたいことがあるように、他の人にもしたいことがある。だからどうしたらいいのか一緒に決めよう」とする協力の感覚だからです。共同体感覚と言ってもいいでしょう。

子どもがおもちゃの取り合いをしたら

ですから、おもちゃを取り合ってしまう子どもには、まず「このおもちゃで遊びたいんだね。すごくかわいいね」と相手の関心に関心を向けて深く共感し、「あの子も遊びたがっているみたいだよ」と別の子の関心にも関心を向けられるように促します。子どもが「うん。そうみたい」と反応してきたら、「あなたが遊びたいのと同じくらい、あの子もものすごく遊びたいみたい。どうしようか?」と本人に決めてもらうというのが基本的なアプローチになります。

こうすることで、「自分のしたいことをガマンして、他人に差し出しなさい」という表面的な利他主義ではなく、あなたにも他の人にも、みんな同じように利己主義があるから、相手の立場に立って、どうするかを決めるという、本来の利他主義を伝えることができるのです。