子どもの我慢強さが高まるのは、他の子の存在があるとき
上述したマシュマロ実験では、目の前の誘惑に負けないよう我慢し、見事2つのお菓子を手に入れることができた子どもは、おおよそ3分の1でした。その後、マックスプランクの研究チームが、どうしたら子どもの我慢強さが上がるかを調べるための実験を行いました。
この実験では最初に、子どもを2人ずつのペアにしてから一緒に風船で遊ばせて、子ども同士が仲良くなる状況をつくりました。その後、子どものペアを半分ずつに分けて、2つの実験を行いました。一つは、ミシェル氏のマシュマロテストと全く同じことをする「一人での実験」です。次に行われた「2人での実験」では、ペアの子どもたちは、別々のお互い見えない部屋にいるのですが、「クッキーを1つあげる。あなたとお友だちの両方が我慢したら、後で2人ともクッキーをもらえるけど、どちらか1人でもクッキーを食べしまったら、2人とも2つ目はなしだよ」と伝えられました。
この実験の結果、子どもたちがクッキーを我慢できた確率は、「一人の時」より「2人での実験」の方が高かったのです。それぞれ別々の部屋にいるので相手の我慢している状況は見ることができず、お互いにコミュニケーションを取ることもできないまま、「お友達も我慢をしているだろう!」と、わずか5、6歳の子どもが協力関係に強い信頼とモチベーションを得ていることが示されたわけです。
ましてや、自分が我慢しても、相手が我慢していなければ、追加のごほうびがもらえない可能性があるという状態でした。それでも子どもが我慢したということは、共同作業を取り組む(お菓子をもらう)社会的なパートナー(お友達)に対する責任感によって、自分だけのためよりお友達のため! に、我慢強くなれたのです。
我慢強い親の子は我慢強い
しっかりと親の愛情を受け、親子の愛着形成ができていないと、特に4歳以降で、我慢のできない子どもになってしまうことがわかっています。親としては、ついつい、「小さい頃から我慢できる子になるようにしつける」と考えてしまいがちですが、我慢することを強いるようなしつけをすることよりも何よりも、子どものやっていることを(甘やかしではなく)認めてあげ、子どもが親からの関心と愛情を受けていること、親との安心できる関係を築けていることがまず何より大切です。まずは、子どもにとって最初の社会である親子間での信頼関係などができることで、親とは離れた社会の中でお友達のことも信用し、責任感を持って我慢もできるようになるのでしょう。
また、親は子どもの鏡、というように、私たちの最近の研究結果では、さまざまな物事について自己コントロールが良くでき、我慢強さをもつ親の子どもは、親と同様に、自己コントロールがよくでき、我慢強い傾向があり、反対に意志の弱い親の子どもは、やはり意志が弱く我慢ができない傾向があることを示しています。もちろん遺伝の要因は排除できないものの、環境要因はとても大きく、子どもは、親が思っている以上によく親の言動を見ています。つまり、我慢強い子どもになってほしい、と願うなら、まず、親自身が、子育てに対してだけではなく、自身の生活全般において我慢強い人間であることがもっとも重要なのです。
<参考文献>
・Carlson, S.M., Shoda, Y., Ayduk, O., Aber, L., Schaefer, C., Sethi, A., … Mischel, W. (2018). Cohort effects in children's delay of gratification. Developmental Psychology, 54(8), 1395–1407. doi: 10.1037/dev0000533
・Flynn, J. R. (1984). The mean IQ of Americans: Massive gains 1932 to 1978. Psychological Bulletin, 95(1), 29–51.
・Rebecca Koomen, Sebastian Grueneisen, Esther Herrmann. Children Delay Gratification for Cooperative Ends. Psychological Science, 2020; 095679761989420 DOI: 10.1177/0956797619894205
・Imafuku, M. Saito, A. Hosokawa, K. Okanoya, K. Hosoda, C. (2021) Importance of Maternal Persistence in Young Children's Persistence, Front. Psychol., doi.org/10.3389/fpsyg.2021.726583
内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。