情報消費に麻痺したメディアと視聴者の心理
コロナ感染拡大初期で世界中がステイホームの渦中にあった昨年5月ごろ、人々は情報を求め、世界中のメディアが好成績を上げ、特にウェブでは過去最高のアクセス数を経験しているメディアも多かった。それは今も続く傾向で、ライフスタイルがオンラインシフトする一方で時間もたっぷりある状況下では、人々の可処分時間と可処分所得は情報を提供するメディアへ押し寄せ、マスコミは総じて賑わっている。
すると、よりわかりやすく、よりセンセーショナルな話題を次々と投下して視聴者や読者を巻き込み、飽きさせないことを意識して、マスコミは“引き”があり、かつ“なるべく長持ちする”話題を探す。それがスキャンダルであり、何かと何かを対立させて戦わせる代理戦争だ。しかも、各社間で他社との差別化を図るから、政治的な左右や上下のポジションがマッピングしやすいタイプの代理戦争ならなお良い。
代理戦争を仕掛けては消費するマスコミビジネス
だから「人種問題」や「ジェンダー」や「格差拡大」には、視聴者や読者だけでなくマスコミの関心も高いのである。賛否両論、意見沸騰。みんなが一斉に「賛成」したり「反対」できる話題は価値が低い。たとえばみんなが「綺麗ね」と口を揃えるお行儀の良い美人女優は話題としてそこまでだが、ある層が熱狂的な支持に沸くのに別の層は罵るようなスキャンダラスなアイドルは、話題が長続きするから、より価値があるのだ。
依存症的とすら呼べる情報消費に麻痺するのは視聴者だけではない。大坂なおみの全仏OP棄権は、そんな代理戦争を仕掛けては消費する、現代のマスコミビジネスへのNOなのである。
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。