海外では卵子提供による体外受精も一般的に

たとえば、アメリカでは福利厚生の一環として未受精卵の凍結への補助を行う企業も多いそう。

「女性が働き続けるためには、妊娠・出産へのケアが欠かせないという企業リテラシーがある。優秀な人材を獲得するために必要な施策だと考えられていると聞きます。こうした背景もあって、海外では20代、30代前半の妊娠適齢期に未受精卵を凍結しておく、という人が多いことも、不妊治療の成績を上げる一因であると思います。また、海外では、35歳以上の不妊治療では、卵子提供による体外受精を行うことも一般的です。妊娠率に最も影響するのは、女性の年齢。年齢とともに卵子は老化し、妊娠しづらく、流産しやすくなるからです。若い女性からの卵子提供を受ければ、妊娠率は提供者の年齢相当ということになります。ただ、日本ではほとんど行われていません。治療成績の背景には、諸外国と日本の家族観の違いもありますね」

ひとことで「日本の体外受精は成績が悪い」と言っても、そこにはさまざまな要因がからみあっています。キャリアを積んでからでないと妊娠、出産を考えづらい、経済的ハードルから治療に踏み出せないなど、不妊治療の年齢が高くなる理由もさまざま。不妊治療への保険適用が議論されていますが、課題は金銭的な問題だけではありません。社会全体で妊娠、出産、育児がしやすい環境、仕組みをつくっていくことが必要です。

構成=浦上藍子

月花 瑶子(げっか・ようこ)
日本産科婦人科学会産婦人科専門医

東京・新宿にある不妊治療専門クリニック杉山産婦人科に勤務。 産婦人科領域で事業展開するヘルスアンドライツのメディカルアドバイザーを務める。 共著書に『やさしく正しい 妊活大事典』(プレジデント社)、 監修メディアに「性をただしく知るメディア Coyoli」がある。