ファイブフォースのすべてを満たす珍しい企業

私は「ファイブフォース」でワークマンの強みを客観的に分析した。

1 作業服市場に業界外からの新規参入の脅威はほとんどない
2 作業服の買い手の交渉力は個人なので法人ほど強くない
3 作業服の代替品の脅威はほとんどない
4 作業服の供給者(売り手)の交渉力はワークマンに比べて強くない
5 作業服市場では個人向け製品の競争がほとんどない

このように「ファイブフォース」をすべて満たす企業はまれだ。とりわけ業界内の競争がほとんどないことに驚いた。

天下のトヨタでもユニクロでも世界的には強い競争相手がいる。トヨタにはフォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズなどから、テスラや中国の上海蔚来汽車(NIO)などの新規参入もある。ユニクロには、インディテックス(ZARA)やH&Mがいる。しかし、ワークマンは競争相手のいない市場にいた。

分析
写真=iStock.com/kokouu
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あえて「大きな市場」を捨てる

市場での戦い方は大きく2つある。市場を広くとらえて浅く進むか、市場を狭くとらえて深く進むかだ。

ワークマンは後者だ。作業服の市場規模は約4600億円。内訳は、法人相手が6割、個人相手が4割と、規模だけを見れば法人のほうが大きい。

しかし、大きな市場には競争相手も多い。そこへあえて行かないのがワークマンだ。「舌切り雀」のお爺さんは土産に出された大小2つのつづらの小さいほうを選んだが、ワークマンも最初から大きい市場を「捨て」て、個人向けにフォーカスした。

たしかに大企業と契約できれば、一つの工場でも数千人分の作業着の販売が継続的に期待でき、おいしい商売に思える。だがよく考えると、アポ取りして商談を重ね、見積もりを出し、交渉で値引きも必要になるだろう。成約後も社員一人ひとりの体格に応じた作業服の調達と在庫管理も必要だ。日常業務を想像すると「追加」で1着注文が入り、1着届けるという毎日。人手も時間もかかる。

そういう仕事はすべて「しない」と考えるのがワークマンだ。

「製品が良ければお客様は自然にくる」
「お客様が自然にこないような製品は出さない」

そうした考えで大きな市場を捨て、小さな市場で高いシェアを取る。作業服の法人需要を捨て、個人向けの店売りに特化する。はなから競争しないと決め、絶対に勝てるポジション取りをした。

業界を見渡すと、法人向けには大手販売業者が複数いるが、個人向け店舗は零細業者が多く、ワークマンの独壇場だ。社内には法人営業部員が3人だけいるが、これは大手法人客の情報取集がおもな仕事だ。そこで勝負する気はそもそもない。