過激な投稿ほど反響が大きい現実

筆者は、タカラトミーは最初からある程度の炎上は覚悟の上で、多くの人に自社の情報を広げることを優先していたのだと推測する。

これにはツイッターならではの構造も関係している。企業がツイッターの公式アカウントを運用する目的はさまざまだが、基本的にはより多くの人に自社の商品を知ってもらったり、好意を持って買ってもらったりすることにある。しかし、モノがあふれる現代において、単なる商品宣伝だけを行うツイッターアカウントには誰も見向きもしない。

フェイスブックなどと違い、ツイッターはリツイート機能があるため、情報が拡散しやすい。また、過激な投稿ほど反応が返ってきやすいことも特徴だ。ユーザーは、堅いはずの企業公式アカウントが意外な発信をすることに共感したり面白がったりしてリツイートやフォローをするのだ。その意味では、企業公式アカウントがフォロワー数を増やそうとする時点で、炎上のリスクが生じてくる。多くの人々が反応しやすい投稿は、必ずしもブランドを守りやすい投稿とは限らないからだ。

ソーシャルメディアと数々のアイコン
写真=iStock.com/metamorworks
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炎上を防ぐことを第一に考えるなら、ブランドを守る投稿だけに徹すれば良い。企業それぞれの考え方や価値観によって、ギリギリの線を狙ってでも話題化させることを優先する企業が存在するということだ。今回は度が過ぎてしまった。

もちろん、企業が公式アカウントの発信を増やすことには大きな意味がある。

19年にアライドアーキテクツが行った「ツイッター企業アカウント利用に関する意識調査」では、「SNSで見たことをきっかけに、商品・サービスを購入したことはありますか?」との問いに76.9%が「ある」と回答している。いまやSNSでの発信は、消費者の購買行動に大きく影響を与えるのだ。

炎上させないための3つの注意点

ただし、いかにユーザーを惹きつけたいからといって、企業としての根本的な信頼を失うような致命的な事態を起こしてはならない。今回のタカラトミーの失態はこれに近い。企業がこうした事態を避けるには、3つの注意点がある。

まず一つ目が、「価値観のアップデート」だ。これは最も大切なポイントである。

ママを顧客とする赤ちゃん向け商品を扱う企業が、「ママを応援」とうたいながら“育児は女性の仕事”というバイアスを感じさせる「ワンオペ育児」を肯定するような動画を発表して炎上したことがあった。

現在は、ダイバーシティ&インクルージョンを基本指針に掲げる企業が増えるなど、個人の持つ価値観や多様性を重視する考え方が社会に浸透してきている。にもかかわらず、いまだに企業が発信する動画やCMなどの炎上が後を絶たない。性差や各種ハラスメント、働き方、子育てなど、さまざまなトピックで企業と消費者の価値観の乖離かいりが露呈し、最も大切な顧客の信頼を失う事態が発生している。

タカラトミーの例で言えば、“暴露します”という過激な発言と見せかけて、「実はみんなが知ってる『リカちゃん』のプロフィールでした」というネタにしたつもりだったのかもしれない。しかし、これによってブランドに大きなダメージを与えてしまった。

ほぼ一人の人間の価値観、判断で投稿を行っていた可能性があるとはいえ、企業公式アカウントであることに変わりはない。ひとたび公式アカウントから情報が発信されれば、それは企業の持つ見解、見識、価値観と捉えられる。

今後は、ツイッターアカウントであっても、自社の意思を表明するような情報発信をする際は、投稿内容に問題がないか多様な視点からダブルチェックすることは必須だろう。

炎上させない、もしくは炎上を軽微に抑えるための2つ目のポイントは、普段から自社のフォロワーと良好な関係を築きあげることだ。普段から良好な関係を築いているアカウントの場合、炎上中にも応援してくれるユーザーが一定数存在する。

先ほど例に挙げたシャープやキングジムのプチ炎上の際も、一定数は支持する声があがっており、フォロワー数も減少することなく次第に沈静化した。特に、必ずしも企業に非のない炎上などの場合は、企業の意思表示がフォロワーにスムーズに伝わり迅速に鎮静化するケースもある。企業の公式アカウントの運営目的に照らしても、普段からの良好な関係性づくりは必須と言える。

3つ目は、当たり前のことだが、企業公式アカウントの運営目的を常に忘れないということだ。ツイッターアカウントの運用は、自社と顧客のつながりが作れるだけでなく、ビジネス上の利益もありアカウントの発展を目指すことは健全なことだ。

フォロワー数を増やしたり反応を良くしたりするというのは「手段」であって、目的化することがあってはならない。企業やブランドのファンを増やすという本来の目的を常に忘れない運用が求められる。

ツイッターの公式アカウントの運用にはリスクも伴うが、メリットも多い。何より会社や商品を愛してフォローしてくれるユーザーのために、有意義な運用を行ってもらいたい。

松田 純子(まつだ・じゅんこ)
リープフロッグ CEO

1980年生まれ。2003年早稲田大学卒業、エン・ジャパンでの求人広告コピーライターを経て、ITベンチャーのワークスアプリケーションズ、博報堂系デジタル広告会社スパイスボックスなどで約15年にわたって広報業務に従事。18年にスパイスボックス経営戦略室マネージャーに就任後、19年より現職。“広報の力で企業競争力をアップする”広報コンサルティング会社・LEAPFROG(リープフロッグ)代表。「広報の目的」=「企業成長」と捉え、伴走型、人材育成型による広報組織の立ち上げ支援を実施。専門は、経営戦略と連動した広報戦略の全体設計、企業成長に資する採用コミュニケーション、社内コミュニケーション施策の設計と実行支援。メディアにて、広報、人事、コミュニケーション領域の執筆多数。