「尊い」を伝えるテクニックとは
そんなわけで、まずはレトリックについておさらいしましょう。レトリックとは修辞、すなわち言葉を巧みに用いて効果的に表現する方法です。同じ内容を伝える上でも、言葉を変えれば説得力が増し、興味を引くことができます。
元々、古代ギリシアの弁論術から始まる歴史的な文法ですが、何を隠そう私たちが使うこの日本語ほど、レトリックに富んだ言語はなかなかありません。
特に平安以前から存在したとされる和歌は、その象徴。
あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
万葉集で最も有名な歌人、柿本人麻呂の作品です。小学生の頃、教科書で覚えさせられたという人も多いでしょう。最初の「あしひきの」が「山鳥」を引き出す枕詞になっていて、加えて上の句そのものが「ながながし夜」を導いているという、二重のレトリックになっています。このようなレトリックを、「隠喩(メタファー)」といいます。
レトリックは何を修辞するか、どう修辞するかで無数にパターンがありますが、「推し文」において最もお世話になるのがこの隠喩でしょう。もちろん、推し文に枕詞など高度なものは必要ありません。たとえば次の推し文を見てください。
悪くはありませんが、どこにでもありそうなお店、どこかで読んだような推し文、といった凡庸な印象です。
推したいなら隠喩を使おう
では、推し文に隠喩を導入してみましょう。
「人気の」は「行列の絶えない」に置き換え、「真面目な」は「きりりと口を結んだ」で表現、「丁寧に」は「1枚1枚」、「明るいスタッフ」は「眩しい笑顔で店内を照らす」と言い換えるなどのメタファーを使っています。
意味としてはまったく同じ内容にもかかわらず、個性が生まれ、かつ情景が想像しやすくなったと思います。この、いわば比喩推しは、一種の文学的・娯楽的な表現にも通じる部分があり、読み手・聞き手を楽しませられます。
とはいえ、ここで紹介した例はごく一部、ましてレトリックの中でメタファーは砂漠の砂粒のようなもの。私もまだ麓のキャンプ場地点というほどに奥深い表現技法です。この崇高なる山を登頂しようという方は、特に近現代の短歌などの本を参考にされることをオススメします。