父親の靴下を履く女子高生
【原田】えーっ! 女子高生が父親の靴下を履くなんて、昔だったらありえないよ。洗濯するときは父親のものと分けて洗ってほしいと聞くことも多かった。堀井さんが多数派だとしたら、娘を持つ世のお父さんは勇気づけられるだろうな(笑)。それに、娘と父親がクローゼットを共有できるなら、今後は家の造り方も変わってきそうだね。個人個人の収納が不要になれば、かなり省スペース化を図れるよ。まあ、今のお父さん世代も、昔のお父さんと違い、確実に清潔感が増してスタイリッシュになってきているからかもしれないね。
【橋場さん】私の友達も、ぶかぶかファッションをしたい時はお父さんのTシャツを借りたりしていますよ。
【原田】えー! お父さんと娘が洋服や靴下を共有するのってそんなに当たり前になっているの⁉ まあ、「メタボ」なんて危機感を煽る言葉もあり、ジムやランニングに行く人が多くなっていたり、今のお父さんは昔よりもスレンダー体型になってきているから成り立つんだろうか。ただ、君たちのような若者世代と親世代とでは、ファッションも価値観もかなり違うよね。親と話したり出かけたりする時、その違いを「嫌だ」とか「ダサい」とか感じることはないのかな?
友達より親のほうが信頼できる
【塩田くん】うーん、僕が無意識に選んでいるものって、親の影響が大きいと思うんですよね。服の好みもそうだし、香水は母親が使っていたブランドを気に入って使っていたことがあるし。もちろん違う部分もあるけど、だからって嫌だとは思わないです。違いがあるのは同世代の人も同じなので。
【原田】今の親世代のセンスが上がってきているのも事実だと思います。親世代のセンスが上がり、きっと昔よりも世代間ギャップが減ってきているのだと思う。とはいえ、いくら父親のセンスが良くても、昔は反発心からとにかく親と違うものを選択する若者も多かったと思うのだけど。
【橋場さん】私は、母親が選んでくれたものが“いいもの”だと思っています。自分にセンスがないと自覚しているのもありますが、やっぱり信頼しているから。例えば、服を試着して似合うかどうか聞いたら、友達は嘘でも「いいね」って言うじゃないですか。母親は正直に言ってくれるので、すごく信用しています。
【原田】そうか。今の若者のほうが空気を読んだり忖度するようになってきているから、かえって親のほうが正直に意見を言ってくれる信頼の対象となっているんだ。昔の親友との関係が親との関係にシフトしてきているのかもしれないね。
【堀井さん】私は母親の服や靴をよく借りるんですけど、ファッションセンスは近くないんです。だから、母親が服を買う時に、借りること前提で意見を言うことはありますね。でも、母には母の好みがあるみたいで、「それはイマドキじゃない」って言ってもあまり聞いてもらえない(笑)。
【原田】さすがに高校生の堀井さんは母親とはセンスが違うわけね。でも、それでも洋服や靴をシェアするんだ。
新たな家族像が大きなビジネスチャンスに
【井上くん】僕は両親と価値観が似ているんです。だから、一緒に行動するのも服を選んでもらうのも全然抵抗がないですね。価値観が違う同世代より、むしろ両親の意見のほうが役に立つ気がします。女性の意見を知りたいときは、母親に聞いていますね。
【原田】皆の話を聞くと、親子の絆が昔より強くなっているように感じるね。日本は一人暮らしが多い国で、家族の総数も以前より減っている。その影響が意外なところに出て、親子関係も価値観もぐっと距離が近づいているようだね。
母娘をセットで捉える市場はすでにありますが、これからは母息子、父息子、父娘というセットもマーケティング対象にすべきなのかもしれません。この“新たな家族像”には、大きなビジネスチャンスが秘められているように思います。
構成=辻村洋子 写真=iStock.com
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。