短期的には受注増で残業激増も!?
2019年4月に働き方改革関連法が施行される。大手企業が対応を進める一方で、中小企業の対応は遅れがちだ。中小企業には「残業時間の上限規制」について1年間の猶予期間があり、「これから対応を考える」という企業も多い。
しかし、それでよいのだろうか。本記事では働き方改革に関する中小企業の課題と、なにをどう進めていけばよいかを提示する。
私は管理職研修をはじめとする人材育成の仕事をしている。大手企業から中小企業まで現在は約40社のクライアントを持ち、年間3000人を越えるビジネスパーソンの声を直に聞いている。そこから感じるのは、大手企業と中小企業の温度差である。
例を挙げよう。私のクライアントに建設資材の商社が2社ある。1社は大企業、もう1社は中小企業である。
その大企業は、かつて長時間労働が常態化していた。ワークライフバランスが課題であるという認識はあったものの、仕事が忙しくなると話は立ち消えになるということを繰り返していた。しかし、1年ほど前から働き方改革に向け、全社サーバーへのアクセスを19時までに制限するなど、本格的な取り組みをはじめた。
一方の中小企業は、現段階で具体的な行動は起こしていない。この先、この2社がどういうことになるかシミュレーションをしてみよう。
2019年度、短期的な業績は中小企業のほうが有利になる可能性が大きい。建設資材を販売する両社の顧客は建設業界である。その建設業は、「残業時間の上限規制」に関し5年の猶予がある。建設業の顧客は、残業時間に関し当面大きな変化がなく、夜間の建材発注も続くことが考えられる。しかし、その受注を受ける建設資材の商社側には変化が起こる。これまで夜間の発注を受けていた大企業は、それができなくなる。顧客の側はストレスを感じるだろう。一方の中小企業が夜間の受注を続ければ、そちらに顧客が流れ、中小企業は業績が上がる可能性がある。
短期的には中小企業のチャンスとも見えるが、一方でそれは大きなリスクをはらんでいる。業績が上がれば業務量が増える。業務量が増えれば残業も増える。働き方改革を進めるどころか、逆行する可能性すら出てくる。
さらに、それは採用難に拍車をかけることになる。ただでさえ売り手市場の近年。若者が長時間労働の企業を避けるのは目に見えている。それだけではない。若年層の転職市場が活況を呈している中、社員の流出という事態も考えられる。