目には見えないけれど、安全を左右する地盤。その調査には、確かな「品質」が求められる。地盤調査を専門とする「地盤ネット」は、データを生かし、新しい土地評価の考え方を提案する。
山本 強(やまもと・つよし)
地盤ネットホールディングス
代表取締役社長
関西学院大学を卒業後、証券会社を経て、住宅メーカーに転職。その後地盤調査会社で10年間勤務し、2008年に地盤ネットを設立。12年には東証マザーズ上場を果たす。

大地震で液状化したり、震度以上の揺れを感じたり、もしくは建物が自重で傾いたり──。地盤が弱い土地は、すなわち災害に弱い土地といえる。足元の地盤を知っておくことは、いざというときに命を守ることにつながる。にもかかわらず、地盤の事前調査が義務付けられた20年前は、その調査手法に問題が多かったという。

「かつては地盤調査と改良工事を同じ会社で引き受けていたため、過剰な工事が行われたり、一方で明らかに危険な地盤が放置されるという状況が横行していました。当時私たちが実施した地盤調査の再鑑定では、約8割の地盤改良工事は不要という結果が出たほど。東日本大震災においても、当社が地盤改良の必要なしと判定した物件約800件は、結果的にすべて無事故でした」

地盤ネットホールディングスの代表取締役社長、山本強氏はかつて地盤調査に関して起きていた問題をこう指摘する。

同社は、住宅会社から依頼を受けて地盤調査を行うほか、一般消費者のセカンドオピニオンとしてすでに実施した地盤調査の再鑑定なども引き受ける地盤調査・解析の専門会社である。2008年の立ち上げから現在まで、調査実績は15万件以上に上る。

地盤改良工事の品質を担保する観点から見れば、独立した専門機関の存在は当然のようにも思えるが「地盤調査業界では長らく、その当たり前が実現できていなかったのです」と山本氏。

「問題は、地盤について専門家と一般の方の間に情報格差があったこと。誰にでも地盤の状態を『見える化』して公開することで、信頼できる住宅建築、透明な不動産取引を実現したいという思いが、私たちの原動力です」

目には見えない部分ゆえに、地盤調査ではデータの妥当性、分析結果の信頼性が問われる。そこで同社は、JIS規格に完全準拠した日本初の調査機器「iGP」を独自に開発。不正防止のためにデータを自動転送する仕組みも搭載した。データのブレを最小化し、人為的なミスもなくすようにAI解析の導入など改良を徹底してきたからこそ、地盤ネットは自社調査の結果に自信を持つ。地盤改良工事を不要と判断した場合に、最大20年間5000万円の補償を提供できるのはそのためだ。

日本で初めてJIS規格に完全準拠した地盤調査機器の進化版「iGP」。データの解析もAIが行う。

地盤情報を公開して安全を一つの価値にする

東日本大震災などを経て、住宅の耐震性能や地盤への関心が高まる一方で、「不動産取引のプロセスでは、地盤の強度が重視されていませんでした」。

住宅建築における通常のステップでは、地盤調査を行うのは土地の売買契約を済ませた後。そうすると工事の直前に地盤の軟弱性が判明し、想定外の費用がかさむ場合がある。

そこで地盤ネットでは、一般の人たちにも足元の地盤について知ってもらおうと、インターネットで地盤情報の無料公開を開始した。地盤の安全度が一目でわかる「地盤安心マップ」やアプリ「じぶんの地盤」、自分の入力した住所の地盤状態を診断する「地盤カルテ」などを続けざまにリリース。一連のツールは国土地理院の「電子国土賞2015」をはじめ、数々の賞を受賞している。

しかしこうしたツールを駆使しても、自分が家を建てたい地盤の安全性を確かめるのには限界がある。それでは、地盤の専門家のお墨付きを得た物件だけを集めたサイトがあれば、いっそう便利になるのではないか──。そんな発想から生まれたのが、2月末にリリースされたばかりの不動産紹介サイト「JIBANGOO(ジバングー)」である。

地盤ネットと全国の工務店やハウスメーカーなどが協力し、地盤の安全性を確認できた物件情報だけを掲載する。物件情報をクリックすれば、地盤の強さや地震による揺れやすさ、液状化、浸水、土砂災害のリスクなどの評価も確認できる。希望のエリアに該当物件がなければ、登録して情報提供を待つことも可能だ。

「掲載物件は、一軒一軒当社のスタッフが現地調査した土地や建物だけです。しかも、そのすべてに補償を付けています。不安があるようなら土地購入前に地盤を調査する。そうすれば、見積もり時から費用が大きく変わるというケースも減らせるはずです」

一般的な不動産紹介サイトは利用無料とするぶん、掲載料でまかなう手法が一般的だが、「JIBANGOO」は物件の管理会社からも掲載料、成約料を取らない。「私たちは本業の地盤調査で利益を得ているので、掲載する不動産の売り主から広告宣伝料は頂きません。第三者の立場でないと、公平な情報は紹介できません」と山本氏。

「地盤が悪くて危険な場所は、日本の宅地面積の14%程度にすぎません。しかし、現在は危険な土地に人口が集中し、逆に安全な土地は空いているいびつな状態といえます。地盤の良い土地を手に入れることは、お金をかけずに災害に備える最良の対策。安全な土地で安心して暮らせる価値を普及し、地盤情報を不動産の一つの指標にしていく。このサイトが、そのきっかけになればと思っています」