資産運用が上手くいく人と、いかない人の違いはどこにあるのか──。お金に愛される人の思考や行動のパターンとは──。これまで3000人を超える相談者に、資産運用を指南してきた“ファイナンシャルDr.”の北川邦弘氏に聞いた。

資産運用に当たっては、感情のコントロールが大事。それを行うためにも、将来のビジョンが重要になる。

北川邦弘(きたがわ・くにひろ)
ファイナンシャルDr.


北海道出身、1957年生まれ。早稲田大学政経学部卒業。総合商社勤務の後に不動産デベロッパーに20年勤務。バブル期に100億円近い債務を背負い、職までも失うが、その後、個人の資産運用を啓発する仕事で再起を遂げた。投資、不動産、相続など、多面的な切り口からアドバイスを行う。CFPR(上級ファイナンシャルプランナー)取得者。

 

競技が決まっていなければスポーツシューズは買えない

──資産運用を始めるに当たっては、まず目標やビジョンをはっきりさせることが大切だと北川さんはかねてより言われています。実際に相談に来られる方は、その点いかがでしょうか。

【北川】正直、多くの方がとてもあいまいです。漠然とした不安を抱えている方や「とにかくお金を増やしたい」という方が少なくありません。

以前、象徴的な体験をしたことがあります。米国で資産運用セミナーに受講者として参加したときのこと。セミナーを始める前に講師が受講者一人一人に、「あなたがこれからの人生で期待する収益率は?」と聞いていくのです。すると、ある人は「子どもが小さくて家のローンがあるから、必要収益率は8%」とか、また別の人は「すでにローンの返済も終わっているので5%でいい」とか、即座に答えていく。講師は最後に全員の期待収益率の平均値を出して、「今日はこの数字を達成するための話をしましょう」と話を始めました。日本であれば、そこまで話が進むのに3日間のセミナーが必要です……。やはりこの差は大きいと思います。

──自分の期待収益率がはっきりしないままに資産運用はできないということですね。

【北川】そのとおりです。例えば、スポーツシューズを買いに行ったとして、100メートル走なのか、マラソンなのかが決まっていなければ、商品を決めることはできないでしょう。店員の側も、具体的に商品を勧めることができません。しかし、「漠然と不安があるから、お金を貯めたい」というのはそれと同じこと。それが日本では当たり前になっているのです。

では、どうしたらいいか。まず、自身の生涯の収支を見積もりながら、キャッシュフローシートをつくることです。その上で、自分が望む生活をするにはどれだけの資産が必要なのかを考える。そうすれば、期待収益率も見えてきますし、金融商品なのか、不動産なのか、運用の対象も検討することができるでしょう。

──そうしたシートをつくるに当たって、留意すべきことはありますか。

【北川】一つの鍵は“複利”です。キャッシュフローシートにおける資産運用の予測について単利で計算しているものも少なくありませんが、実際には20年、30年にわたって運用をするわけですから、複利で計算しなければ意味がありません。日本では長くデフレの時代が続いていたため見過ごされがちですが、仮に本格的なインフレが訪れるとすれば、物価もいわば複利で上がっていくわけです。この辺りの感覚をつかんでおかないと、将来を正しく見通すことはできません。

──ある程度の資産を持っている人も、やはり将来に向けてシミュレーションする必要がありますか。

【北川】どんなお金持ちでも、自らの期待収益率を把握することは大事です。1億円の資産がある人も、10億円の資産がある人も、それぞれの不安を持っています。それは、結局目標がはっきりしていないから。どれだけ資産があっても安心できないのです。自分の人生において、「これだけお金があればいい」ということを明確にするためにも、キャッシュフローシートの作成などは重要です。

投資を始める前に三つの財布を用意する

──資産運用を実践するに当たっては、お金を三つの財布に分けておくといいとお話しされています。

【北川】リスクが怖くて投資に踏み出せない人の多くは、お金の置き場所が一つしかないケースが多いのです。そこで私は、「守る」「貯める」「増やす」という三つの財布を用意することを勧めています。

「守る財布」は5年以内に使う予定のあるお金を置いておく場所です。このお金は減らすわけにはいきませんので、定期預金や個人向け国債など元本が確保されているもので運用するのがいいでしょう。

「貯める財布」とは、給与が振り込まれてくる口座です。この口座の残高が一定の金額を上回ったら「増やす財布」にお金を移します。私の場合には、その金額を50万円と決めています。残高が50万円を超えたら、その分を「増やす財布」に移しています。

「増やす財布」は、例えば株式や投資信託、外貨、不動産などに投資をするお金です。ここに置いておけるのは、長期に運用できるお金のみです。

──お金の使い道を明確に分けておくのですね。

【北川】そうです。20年後、30年後に使うお金を「守る財布」に寝かしておく人が案外少なくありませんが、現在の低金利では増えません。結果、お金が必要なときに足りないという事態に陥ってしまうのです。

──資産運用が上手くいく人、いかない人の違いなど、これまで多くの方のお金の相談を受けてきて感じていることがあれば聞かせてください。

【北川】お金に愛される人は、お金そのものを目的にしていません。お金は生き方を実現する手段であると、しっかり理解している人が多いように思います。また、お金持ちの生活は意外に質素ですね。収入に見合ったシンプルな生活をしています。物欲にとらわれていないのだと思います。また、周囲からの祝福や感謝を素直に受け入れられる人が多い、というのも実感です。自己を肯定している人というのは、やはり前向きで行動力があります。

──最後に、これから本格的に資産運用を始めようと考えている人にアドバイスをお願いします。

【北川】資産運用を進めるに当たっては、自らの感情をコントロールすることが実はとても大事です。失敗するパターンとしては、自分を抑えられずに過大な投資をしてしまう、逆に臆病になり過ぎてお金が減ることを極度に怖がってしまう──。こうしたケースがとても多いのです。

一方、成功する人は、投資や資産運用がいつも右肩上がりにはいかないことを理解していて、何かあっても我慢ができます。リスクを事前にイメージして、その対応を常に考えているのです。では、その差はどこから生まれるか。最初の話に戻りますが、まさに目標やビジョンがあるかどうかがポイントになります。目指すべき目標があれば、我慢もできるし、対策も取れる。その意味でも、まず、自らの将来像をできるだけ具体的に想像することから、資産運用を始めてほしいと思います。