やりたいことを実現するには、周囲の人々を味方につけることが大事です。この連載では、研修・講演依頼があとをたたないスピーチコンサルタントの矢野香さんに、他者に自分を印象づけるスキルについて聞いていきます。
「もっとしゃべってみたい」と思わせる自己紹介を
自己紹介は鉄板ネタをつくることが大事です。「自己紹介をしてください」といわれると、多くの人が名前は何、家はどこ、家族構成は……と、話しだします。これではまるで「警察の取り調べ」。このように“自己開示”するのではなく、「私プレゼン」のためには“自己呈示”をしていただきたいのです。つまり、思われたい自分にふさわしい内容を話しましょうということです。そもそも、なぜ警察の取り調べになってしまうのでしょうか。自分のことを次々と話すからです。思いつくままにマイデータを語っても、相手の記憶には何も残りません。ですからテーマは、ひとつで十分。相手に覚えられたいテーマを絞り込みましょう。
例えば「私はランチの食べ歩きが好きです。丸の内近辺の安くておいしい店が知りたいときは私に聞いてください」と自己紹介した人がいました。確かにランチ情報を知りたがっている人はいるかもしれません。しかし、果たして自分は相手に「食べ歩きが好きな人だ」と覚えられたいのでしょうか。ビジネスウーマンなら、単なる食べ歩き好きだけでなく、ビジネスにおける能力も相手に印象づけたいですよね。
「食べ歩きが好き」で、かつ「行動力がある」と相手に思われたい場合、こんな自己紹介はいかがでしょう。「新しくオープンした店には絶対に行くようにしています。気になる店があれば私に聞いてください」。当然、嘘をついてはいけませんが、周りに覚えてもらうための自己紹介なので、こういう演出もしながらネタを組み立てていくことが大切なのです。このような鉄板ネタを仕事、プライベート、趣味など分野別、シーン別にひとつずつ持っておくとよいでしょう。
さらに大事なのは、自己紹介は次の会話へのフックであること。自己紹介で自分のデータを120%話す必要はありません。自分の情報を出し切り、「こんな私ですが、もしあなたと同じところがあれば声をかけて」と、受け身になってしまうのはNG。自己紹介は、自分CMです。例えば車のCMを想像してください。車が海辺を格好よく走っている映像が流れます。スペックや性能、値段は伝えず「お近くのディーラーへ」、それで終わりです。
自己紹介も同じように、次の行動を予告しつつ、興味を持ってもらうだけでOK。1分の自己紹介は、その後の1時間の会話のためにあるのです。聞き手に判断を委ねず、自分から仕掛けていく。メリットを伝えて、次にもっとしゃべってみたいと思わせる余韻を残す。そうしたテクニックを身につけてほしいですね。
その点をふまえると、いまの時代、SNSの使い方も重要になってきます。考えられるパターンは2つあります。まず1つめはリアルで会う前に、自分のSNSを見られているパターン。相手はあなたに会う前、すでにフェイスブックやブログをチェックしていて、あなたのことをある程度知っているかもしれません(逆にいうと、人と会う前にはこの程度の下調べをしておくことは、ビジネスウーマンとしての基本でもありますね)。このリアル対面よりも先行するSNSでの印象を“第ゼロ印象”と私は呼んでいます。実際に会う第一印象より前にゼロがあり、その第ゼロ印象が大事というのがパターン1。
2つめはリアルで会ったときの自己紹介で、あなたに興味を持った人が、あとであなたのSNSを検索して、さらに詳しく知るパターン。たとえ初めて会ったときに5分しか話をしなかったとしても、そのあとでSNSを読み込んでいるので、次に会ったときは、やたらと自分のことを詳しく知っている。最初の名刺交換が自分の15秒CMになっているのがパターン2です。