しかし、テロリストになった人々のプロフィールは多種多様であり、貧困や差別などがテロの原因であると一言で片づけられる話ではない。順調に学校生活、社会生活を送っているように周囲から思われている人物がテロリストになったり、テロではない犯罪で収監されている人物が、刑務所の中で過激思想に感化されたりと、さまざまである。専門家の間では「過激化(radicalization)」と言っているが、いまやその研究には数多くの論文や、関係機関、シンクタンクによる報告書が蓄積されている。だが、人が過激化してテロに走る背景や要因は1つや2つではなく、それらを除去したり減らしたりする施策に簡単には結びつかないのが実際のところである。

イスラム過激派のテロが多いと、反イスラムのテロも比例して発生する。ノルウェーで起きたブレイビク事件は近年稀にみる大惨事であった。たった1人で、1日のうちに爆弾テロと銃撃で77人を殺害したアンネシュ・ブレイビクは、首都オスロで生まれ育ち、反イスラムの思想に凝り固まり、その対極にある多文化主義を推進するノルウェー労働党を憎悪していた。この事件もまたホームグロウン・テロリズムにほかならないのである。

最後に、日本はどうだろうか。日本でホームグロウン・テロリズムは、欧米各国のような深刻な安全保障問題にはなっていない。そもそも移民や難民をほとんど受け入れない国であるし、イスラム教徒にいたっては日本国内に約11万人しか居住していない。欧米主要国はそれより1ケタ多いのである。いまの日本にはホームグロウン・テロリズム対策といえるものもない。しかし、テロリズムは、そういう人数比で脅威評価できる単純な問題でもない。国内情勢と欧米各国の動向を、関係機関や専門家が注意深く分析し続けている。