銀座本店はメゾンのアイデンティティーを伝える場

ゴールドのビーズをあしらって、若々しさ、モダニティ、そして自由といったイメージを表現する「ペルレ」コレクション。「ペルレ ゴールドパール ブレスレット、ミディアムモデル」(左から)ピンクゴールド、イエローゴールド各51万5000円 ホワイトゴールド54万5000円 「ペルレ クローバー リング、スモールモデル」(左)ピンクゴールド×ダイヤモンド155万円 (右)ホワイトゴールド×ダイヤモンド165万円(すべて税抜き)
さながら雪の結晶のように散りばめられたダイヤモンドが、繊細でゴージャスな印象の「スノーフレイク」。ともにプラチナ×ダイヤモンド。(上)ネックレス3810万円 (下)イヤリング1560万円(ともに税抜き)

ベロワー氏がハイエンドのマーケットを重視する理由は、大きく2つある。1つは日本の人口推移によるものだ。「今後、日本は人口が減少するとともに、富が一部の人間に集中していく」(ベロワー氏)との予測から、富裕層にターゲットを絞り、投資的な面も含めてメゾンの価値を伝えることが狙いだ。

そしてもう1つの理由がメゾンのポジショニングにある。日本におけるヴァン クリーフ&アーペルといえば、可愛らしくてキュート、幸運、愛、ポエティックなどのイメージを思い浮かべる人が多いことだろう。

「そのようなイメージはまったく間違っていません。コレクションにはいろいろな表現があって、例えば自然を表現したものや、幸運や愛をメッセージとして込めたものもある。それらの代表的なものが『アルハンブラ』や『ペルレ』でしょう。こうしたものも当然、今までと変わらず進化させ続けていく必要があります。

一方で、それらと同じくらい大切で、また私たちの伝統を表現するうえで非常に根本的なものがハイジュエリーのコレクションです。これは今に始まったコンセプトではなく、1906年の創業当時から伝えているもの。今、日本でやるべきことは、メゾンの歴史がどのように始まったのか、私たちが何者で、どのような道のりを歩んできたのか、ということを正しく伝えることだと思っている。そのために欠かせないのがハイジュエリーであり、いわばメゾンの根幹を成すアイデンティティーがそこにあるのです。こうしたメゾンに対するイメージの面で、日本と欧米では差がある。

日本においてハイエンドなマーケットを重視する最大の目的は、類まれなクリエーティビティーとサヴォアフェール(創造する才知・技芸)を持つハイジュエラーであるという、ヴァン クリーフ&アーペルの真の姿、正しいポジショニングを伝えるためなのです。そして、それが日本の代表である私に課せられたミッションでもあります」

冒頭でお伝えした銀座本店の1階にハイジュエリーが並ぶ理由は、もうお分かりいただけたことだろう。絢爛豪華なハイジュエリーの制作過程には、豊かな発想や美意識のみならず、世界中から宝石を集めるバイイングの力があり、石の質を見極める選択眼があり、そしてそれを美しくセットする独自のテクニックがある。そうしたヴァン クリーフ&アーペルのアイデンティティーを、一部の特別な顧客のみならず、広く一般にまで発信するのが旗艦店である銀座本店の役割というわけだ。メゾンの格を知れば、所有する高揚感や満足感はいっそう高まる。フラッグシップブティックは何たるか、そのお手本を見た思いだ。

(取材・文/デュウ 撮影/高橋一輝)