長年、住宅ジャーナリストとして活躍し、さまざまな物件を見てきている山下和之さんに、「こだわりの家」をテーマにお話を伺った。こだわるポイントは人それぞれ。大事なのは、家族全員のこだわりを洗いだして、時間をかけて話し合っていくことだとアドバイス。家づくりの目的は、家族が幸せになることなのですから。
山下和之●やました・かずゆき
住宅ジャーナリスト。1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活躍。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『プチプラ物件のすすめ』(中公新書ラクレ)、『絶対に失敗しないマイホームの選び方・買い方』(執筆監修・学研パブリッシング)など。
一人ひとりの夢をかなえる家づくり
長く住む家を建てるとき、何にこだわれば満足できる家になるのか。生涯最大の買物だけに、場所や予算を考える前にしておきたい準備がある。
住宅ジャーナリストの山下和之さんは、第一に、家族でよく話し合うことをすすめている。
「ご主人や奥さん、子供たちも含めて、家族全員の希望を突き合わせることが大事です。昨今しばしば見受けられるのは、奥さんの希望ばかりかなえて、ご主人の意見が反映されないというケースですね。家にいる時間がいちばん長い奥さんの希望を優先するのは当たり前のことですが、注文住宅を建てるのであれば、ご主人が自分のためのスペースがほしいと考えるのも普通のこと。奥さんには、キッチンの横にパソコンや趣味にも使えるユーティリティスペースを設け、ご主人にはご主人用の空間をつくる。考え方として大事なのは、家族全員が幸福な家、ということです」
例えば、書斎やひとりで過ごす趣味のスペースがほしいという希望があるとする。そんな贅沢は限られた予算内では望めないかというと、工夫次第のようだ。
「天井高1.4メートル以内のスペースは容積率に換算しなくてもいいので、天井裏などを有効に活用することができます。小さな書斎にしてもいいし、子供たちの隠れ家的な遊び場にしてもいいですね」
同様に、地下室をつくることも効果的だ。
「ワインセラーにしたり、防音設備を入れたスタジオのような空間にしたり、さまざまに使える地下室は、工賃はその分だけかかりますが、床面積の50パーセント未満は容積率に換算しなくていいので、有効に活用したいですね」
80歳の女性が建てた究極の夢の家
山下さんによれば、地下室を家族のためのシェルターにした男性もいた。「ご自分が留守にしている間に万が一のことが起きても、家族が逃げ込めるシェルターをつくったのです。水も食料も蓄えておけば、自分が帰宅するまで、家族が安全に身を守ることができると考えたわけです。家を建てるなら、このように、いろいろな希望を出すことが大事です」
自分がどんな家に住みたいか。希望は千差万別。子供たちが巣立った後で終の棲家を建てることを決心した女性は、2階まで吹き抜けの玄関ホールに螺旋(らせん)状の階段をつけたいという願いをかなえたという。
「この女性は、80歳になろうという年齢でした。足腰が弱くなる年齢にさしかかって、いつまで階段の上がり下りができるのかわからないし、吹き抜けはスペースを無駄にします。けれど、吹き抜けと螺旋階段にこだわったのは、亡くなったご主人と初めて見た映画に、そんな家が出てきたからです。ドレスを着た美しい女優さんが、その階段を下りてくる。それと同じことがしたくて家を建て、完成すると、ドレスを着て、子やお孫さんたちからの拍手を浴びながら階段を下りたといいます」
本当に住みたい“こだわりの家”とは、こんな家のこと。大事なのは、家族それぞれに、自分のこだわりがあるということだ。