「これぞスペシャルオーダー」のユニークさ

「リファレンス 57260」は、3人の時計師がじつに8年の歳月を要して完成させた記念碑的なモデルとなった。複数のカレンダー表示やダブルレトログラード式スプリットセコンドクロノグラフなど前例のないものも含めて57の機構を詰め込んだ、まさに「21世紀で最も複雑な時計」である。アトリエ・キャビノティエでつくられる時計はすべて1点もののため、一般に公開されることはまれだ。記念すべきファーストオーダーとなったリファレンス 57260をはじめ、これまでに顧客に納品した時計のうち公開が許可された3モデルからスペシャルオーダーの時計づくりを見てみたい。

「リファレンス57260」(2015年完成)
 

――2006年に受注し、翌年製作開始。8年後の2015年に完成した複雑懐中時計。表(写真左)と裏(同右)の両面ダイヤルから成り、時計史上最多の57の機構を搭載する。

表面の主な機能は、時刻表示、ムーンフェイズ、ダブルレトログラード式スプリットセコンドクロノグラフ、アラームやグラン&プチ・ソヌリなどの鳴りもの系、そしてユダヤ暦永久カレンダーである。ユダヤ暦とは月の満ち欠けを基準とする暦で、1カ月の日数は29日か30日、1年は12カ月または13カ月から成る。第13月(閏月)の挿入は19年に7回の頻度(メトン周期)で行われる。これら不規則かつ煩雑な暦をすべて自動修正して表示するほか、ユダヤ教徒にとって1年で最も厳粛な日とされる贖罪日の表示も行う。ちなみに、ユダヤ暦では西暦換算で紀元前3760年を紀元として計算し、2015年9月から新年が始まっているため、この時計が発表された昨秋は5776年となる。

一方、裏面の主な機能は、ワールドタイム、グレゴリオ暦とISOカレンダーをともに表示する永久カレンダー、均時差表示、日の出・日没時刻表示、3次元で回転するアーミラリ天球儀トゥールビヨン、時計オーナーの居住地から見た夜空&星座表示など。

18Kホワイトゴールドケース。ケース径98mm(厚さ50.55mm)。手巻き。ジュネーブ・シール取得。

「フィロソフィア」(2009年完成)
 

――2006年受注、2009年納品。ダイヤル上の1本のセンター針で時刻を24時間式に表示する腕時計。正確な時刻を知りたい場合はミニッツリピーターを作動させる。

6時位置に1分で1回転するトゥールビヨン、9時位置にムーンフェイズを搭載。ムーンフェイズの月はクレーターのように彫金が施され、夜空には月のほかに北極星があしらわれている。シースルーケースバックからは、おおぐま座とこぐま座が描かれたプレートに設置されたパワーリザーブインジケーターがのぞく。

18Kピンクゴールドケース。ケース径43mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。ジュネーブ・シール取得。

「ウラディミール」(2010年完成)
 

――2006年受注、2010年納品。時計の表(写真左)と裏(同中)に17以上の機構を備え、ケース側面やダイヤルに精緻な装飾を施した、まさにスペシャルオーダーならではの腕時計。モデル名のウラディミールとはスラブ語を語源とし、「平和な治世」「万人の幸福」といった意味を持つ。

時計表側には、1時位置から時計回りに、グランorプチ・ソヌリの設定を示すインジケーター、ゴールド製の月が輝く月齢表示付きムーンフェイズ、1分で1回転するトゥールビヨン、週表示とパワーリザーブ表示(同軸)、24時間式の昼夜表示が並ぶ。一方の裏側には、ダイヤル上部に永久カレンダー、中央に均時差表示、下部には日の出・日の入り時刻と北半球の天空図が配置されている。

表裏の両ダイヤルには、この時計のために考案されたギヨシェ装飾が施され、ケースサイドには中国の干支が浮き彫りでエングレーブされている(写真右)。十二支を掘り上げるのに6カ月以上を要するという。

18Kピンクゴールドケース。ケース径47mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。ジュネーブ・シール取得。