自由度が高いサ高住
「特化戦略」で差別化へ

サ高住が「有望な市場」であることは各種の数値や状況が示唆しているが、魅力的な市場であればあるほど、人が集まってくるのは当然のこと。では土地オーナーは、どんな観点からサ高住という事業を考えていけばいいのか。

まずは基本的な要件を確認しておこう。サ高住とは「床面積が原則25平方メートル以上(ただし共用部に十分な機能と広さがある場合は18平方メートルでも可)でバリアフリー構造」であること。そして必須のサービスとして「安否確認と生活相談」を提供していることが登録基準だ。

このことからも分かるように、介護サービスを前面に打ち出しているわけではない。例えば介護付き有料老人ホームの場合、特養と同じく直接雇用された介護スタッフにより、所内で介護サービスが提供される。かたやサ高住ではその大半が、外部のサービス事業者と個別に契約。必要に応じて、複数の介護サービスを活用する仕組みだ。つまり居宅介護と同じシステムであり、この点が事業者にとっての自由度の高さにつながっている。

田村氏によると「サ高住は厳密な基準がないため、商品やサービスの間口が広い。その利点を生かし、居住性や設備・機能、サービス面などで“独自性”を出すことが入居者を集めるポイントです」と助言する。

「例えば部屋の広さ。最低基準である18平方メートルよりも、25~40平方メートルの部屋から入居者が決まる傾向があります。自立している方や、軽度の要支援の方なら、今まで住んでいた自宅と同じような生活空間を確保したい。そう考えるからです」

一方で要介護度が高まると「あまり広くなくてもいいから介護サービスが充実したところで暮らしたい」とニーズが変化していくことも考慮しておくべきだろう。

「一般的なサ高住は、同じ建物内にデイサービスや訪問介護所を設けています。またケアマネジャーの事務所を置き、外部サービスの形態をとりながら、入居者の利便性を高めていることが特徴です。食事サービスについても、ほぼ100%のサ高住が提供しているといってもいいでしょう。そのため介護や食事といったサービスの質は、入居者がここに住みたいと感じるかどうかの大切な目安となります」

いずれにしても、「介護サービスが手薄だと人が集まりにくい」と田村氏は指摘する。

地域と連携できる開かれた場づくりを

このように、サ高住の運営には専門的な知識やノウハウも求められる。だからこそ大前提として、最初のステップで力を注ぐべきなのは「信頼できるパートナー探し」である。田村氏も「急速に参入者が増え、介護サービス事業者も玉石混交。選択は慎重に」と助言する。

「土地のオーナーさん自身が、事業に直接関わるのは現実的に難しい。大手企業がグループのネットワークなどを活用して、市場調査から開発・建設、さらにサービス運営まで一貫して請け負うケースなども増加しています。まずはそうした事業者からの情報収集が効率的でしょう」

また、「3年前に始まった『リビング・オブ・ザ・イヤー』も参考になるかもしれません」と田村氏。これはサ高住や有料老人ホーム、特養、グループホームなどのカテゴリにかかわらず、優れた高齢者住宅を選定して表彰するもの。エントリーできる部門は「介護看護サービス」「医療・地域連携」「食事サービス」「コストパフォーマンス」「介護ロボット活用」「職員研修教育」「入居者の活動と参加」の7つがあり、「それぞれの内容をチェックすることで、事業の要点を見る目も養われるはず」と田村氏はいう。

サ高住は、各地域の実情に応じて、より柔軟な開設・運用が可能となる方向へと進んでいる。市町村の施策の内容や動向なども加味したとき、自身が保有する土地のポテンシャルがどの程度なのか、十分に把握しておきたいところだ。立地・市場調査をはじめ、どんなサービスをどの範囲まで展開していくのかなど、運営する側にはノウハウ・能力の「引き出し」が一層問われることになるだろう。

「これからの事業者に求められるのは、地域との連携です。高齢者向けの住宅や施設は、いまだ閉じられたイメージも根強い。そこから脱し、介護や食事などのサービスを積極的に地域に開放していく。ボランティアなどが集い、地域のお年寄りをはじめとする住民も気軽に利用できるような交流の場へ育てていく。こうした開放型モデルは、支持されるサ高住の一つの方向性だと思います」

先頃、政府が新たに掲げた「介護離職ゼロ」という施策は、サ高住事業を強力に後押ししている。また地域社会への貢献という点でも、サ高住の役割は大きい。土地活用の新たな一手は、ニッポンが抱える課題を解決に導くカギにもなり得る。