水産物を取り扱ってきた経験があるからこそこだわる、
和風即席麺の“だし”
その1。かつお節を粉砕してカップに投入していること。
「即席麺は、麺そのものの主張が強いので、天然素材からうまみを煮出した通常の“だし”では、本来の風味を味わうことができないのです。つまり、カップ麺の“だし”と普通の“だし”は異なるものなのです。そこで、カップ麺の‘“だし”としてのベストマッチを追求し、かつお節を粉砕して、カップ麺に入れるという方法にたどり着きました」
カップの底にほんの少しだけつゆが残るところまでていねいに啜っていくと、最後にわかる。細かな粉粒が残っているのだ。これが削ったかつお節の粉末なのである。原料のかつお節も品質の高いものを用い、かつお節粉砕時に、従来行っていた熱処理を省くことにも成功。これにより、より香り高い風味をキープしているという。
言葉で説明するのは簡単だが、粉砕するかつお節の粒の大きさにもポイントがある。
「粒が小さすぎると、生臭さが出てしまい、逆に大き過ぎるとつゆの中に沈んで、味が出ない。ここは試行錯誤の繰り返しで、現在の大きさになりました」
もともと水産会社であって、かつお節の生産にも精通している企業だからこそ、おいしい“だし”への試行錯誤にも一切手を抜かない、ということなのだ。現在も高品質な原料の調達と、品質にブレを出さない工程管理、品質管理を徹底するため、仕入れからかつお節の粉砕まで、すべて自社グループ会社で行なっている。
その2。原料のかつお節も1種類だけではない。
「原料とするかつお節は2種類。ひとつは華やかな風味に特徴のある荒節。そしてもうひとつが、燻香が強いインパクトのあるタイプのかつお節です。この2種類を混ぜることで、華やかで、同時にインパクトのある味わいを実現しているのです」
「赤いきつね」と「緑のたぬき」
ロングセラー商品の所以
日頃あまり気にしたことのないカップうどん・そばの“だし”。しかしその背景には、「赤いきつね」に先行する「カップうどん きつね」の発売(1975年)から数えて40年の歴史がある。食品には滅多に用いないとされた「赤」を商品名にもパッケージにも採用した「赤いきつね」の登場は、その3年後の1978年。CMキャラクターに起用したのは武田鉄矢さんだ。カップうどんという斬新な商品を訴求する上で、当時、俳優としてミュージシャンとしてユニークなポジションにあった同氏のCM登場は効果的だった。CMはシリーズ化され日本全国に「マルちゃん」を浸透させる一助となった。こうした、ネーミング、パッケージ、CMなどのコミュニケーション戦略においても東洋水産は数々の大胆な決断を重ねて、「赤いきつね」と「緑のたぬき」を国民食にまで育て上げたのだ。
1つの商品を、関東、関西、西日本、北海道の4エリアでつくり分けているのもマルちゃんだけ。“だし”に用いる原料から別々のものを選び、全国で異なる味の嗜好に、絶妙に対応している。だからこそ、このパッケージを見れば、それこそお祖母さんからお孫さんまで、その味――日本に固有の“だし”の味――を思い出すことができる。マルちゃんの“だし”はまさに日本人の記憶の味だ。もっともっと世界に評価されていく味である。