今、エネルギー事業関連の工場や施設等を新設するにあたって、多くの企業が“立地候補地”に挙げる場所がある。北九州市の北部に位置する響灘地区だ。古くから工業都市として栄える同市の新たな産業集積地となり始めたこの地域。魅力や優位性はいったいどこにあるのだろうか。

海上輸送に抜群の強み
国内外へ好アクセス

複数の産業用地を検討した結果、“総合力”でほかを上回っていた──。

実際に響灘地区に進出を決めたエネルギー関連企業の代表的な声だ。支持を得る総合力──その具体的な要素の一つは何より充実した港湾インフラである。西日本最大級の水深を擁する「ひびきコンテナターミナル」やコンテナ以外の貨物を扱う「響灘南岸壁」を備えるこの地であれば、あらゆる貨物に対応することが可能だ。

光武裕次●みつたけ・ゆうじ
北九州市港湾空港局 部長

「例えば響灘地区の重点立地分野である風力発電産業にとっては、部材や製品の輸送が大きな課題となっています。風車の大型化が進む中、海上輸送の重要度が急速に高まってきているのです」と説明するのは、北九州市港湾空港局の光武裕次部長だ。

「その点、響灘地区はまさに港湾に隣接し、輸送コストや手間の削減に貢献します。またアジア市場の成長が予想される中、海外へのアクセスに優れており、10年後、20年後を見据えたグローバル拠点としても力を発揮するでしょう」

北九州市港湾空港局では2010年、風力発電分野で部品の輸入から製造、実証実験、メンテナンスまで行う環境を整備する「グリーンエネルギーポートひびき事業」を始動。国内はもとより、アジア地域における総合拠点となるべく企業の集積を図っている。

さらに最近は、風力発電が陸上型から洋上型へと移行し、設備の大型化、重量化に拍車がかかる中で、効率的・経済的に洋上の建設サイトへ移送する仕組みづくりに注力。洋上風力発電の拠点港としても歩み始めたところだ。

左:充実した港湾施設に隣接した広大な産業用地を持つ響灘地区。地区内には大型コンテナ船も入港可能な「-15m」の大水深岸壁を持つ。加えて市街地にも近く、利便性が高い。
右:着々と企業集積が進む一方で、十分な面積の敷地を確保できるのが響灘地区の魅力。中長期の立地戦略の実現をサポートする。

ものづくりのDNAが
競争力の源泉に

そして、その他の再生可能エネルギー関連では、日本最大のバイオマス燃料集配基地の立地も注目のトピックだ。国内でいっそうの普及が期待されるバイオマス発電では間伐材や農産物残渣を燃料とするが、それには海外から輸入されるものも多く、大量にストックできる場所が必須となる。そこで、港湾の背後に広大な用地を有する響灘地区に白羽の矢が立ったのだ。

「約2000ヘクタールに及ぶ用地も、響灘地区の総合力を支える大事な要素です。国内でこれだけ大規模かつ自由度の高い用地を確保できる所は、ほかになかなかないでしょう。また先ほど海上輸送のお話をしましたが、陸上輸送の拠点としても利便性は高く、最寄りの高速道路の出入り口までおよそ4キロメートル。鉄道を含め、本州とのネットワークも充実しています。さらに市の中心部、小倉までも15分ですから、ビジネス環境としての要件を揃えています」と光武部長は言う。

そしてもう一つ、北九州市を語るときに忘れてはならないのが、“ものづくりのまち”としての歴史だろう。

1901年に官営八幡製鐵所が操業を開始して以来、北九州地域は鉄鋼、電機、自動車などさまざまな産業を育んできた。その中で培われたものづくりのノウハウやDNA──これは数字では表しにくいものの、確実に企業の競争力の源泉になっているに違いない。実際、他の地域より進出してきた企業からは「事業を始めてみると、人材の質の高さがよく分かる」といった声が聞かれる。

かつての公害を克服し、いまや世界的な環境都市となった北九州市では、自治体と事業者が一体となって、環境産業、エネルギー産業の育成に本気で取り組んでいる。響灘地区においても、北九州市と民間企業五社で響灘地区開発推進協議会を組織し、継続的にセミナーなどを開催。企業誘致を積極的に進めているところだ。

「風力発電に限っても、すでに発電事業者、部品メーカー、メンテナンス企業などがエリア内で活動しています。おかげさまでここ数年は、全国の関連企業から進出に関するお問い合わせも多数いただいており、産業集積が加速している状況です。今後も市としては、単に用地やインフラを提供するのではなく、具体的な成果にもコミットする“戦略的パートナー”として、多面的なサポートを継続していきたいと考えています」

日本屈指の港湾インフラを持つのをはじめ、用地や人材面など、製造、物流拠点に欠かせない複数の条件を備えた北九州市響灘地区。新規立地を検討する企業にとっては、やはり見逃せないエリアといえそうだ。