ポイント2

親子の会話が
英語力にも響く

佐藤久美子●さとうくみこ
玉川大学大学院教育学研究科教授。専門は心理言語学、応用言語学、英語教育。乳幼児の言語獲得・発達研究に従事し、その科学的成果に基づく英語教育を提案している。2014年度「基礎英語3」講師、NHK Eテレ「えいごであそぼ」総合指導も務めている。著書に『えいごであそぼプラネット』(旺文社)、『こうすれば教えられる小学校の英語』(朝日出版社)など多数。

先の「音の獲得」調査では、歌とチャンツ、読み聞かせで英語音を聞かせたが、その3グループで最も音の獲得度合いの高かったのは、読み聞かせだったという。

「しかも、日本語の語彙力のある子ほど、初めて聞いた英語でも反復力が高いという結果が出ました」

日本語の語彙の豊富さと語彙の反復力が、英語の習得とも深く関わってくる。つまり、英語の習得を容易にするには、同時に日本語の会話が上手にできるよう育てることも大切だというのだ。

別の調査で、佐藤先生は子供の語彙力がどのように培われるのかも追跡している。2歳児の親子約30組の母子を選び、子供の発話量の多い母親の、子への言語的な接し方の特徴を調べたのだ。3つのポイントがあった。

それは、子供の語りかけに対し、母親が「すぐに、短い言葉で、ゆっくりと」応答しているということだったという。

「素早い応答は、自分の話が伝わった喜びを子供に感じさせます。短い応答は、次の言葉を出しやすくする。子供が聞きとれる速さで、子供が言ったことを繰り返すだけでも、会話は転がっていきます」

英語学習の要領も、実はこれと同じだと佐藤先生はいう。身近な事柄を表現する短いセンテンスの言葉を、反復するように会話する。

「幼児や小学校低学年では、親子ならば英語と日本語がまぜこぜの会話でもかまわないと思います。英語の絵本を読んだり、子供向け英語教材のDVDを見たりして会話する。一緒に楽しむことで、英語への子供の関心も高まっていきます」

ポイント3

英語「中1の壁」を
つくらない方法

ベネッセなどの調査によると、小学校の外国語活動が「好きだ」という児童は7割にのぼる。佐藤先生によれば「英語で話を聞くことや話すことを、子供たちは楽しいと感じている」という。ところが、である。

「中学生になると『英語が難しい』『嫌い』と離れていく子が急に増えるんです」

中学校の英語は「読む」「書く」が中心で、文法の理解を求められる。外国語活動を通じて「英語で会話ができるようになりたい」と思った子供たちの希望と、授業内容にずれがあるため、それが壁になっているのではないかと佐藤先生は見ている。

では、子供がひとたび抱いた英語への興味を持続させるには、どうしたらよいだろう。「学校の授業以外で、多様なかたちで英語に触れられる機会をつくる」のがよいという。

「海外の子供向け英語教材を、一緒に読むのもいいですよ。英会話教室もいいし、ラジオ英会話も今は楽しく学べる内容になっていますから、子供の興味を引くと思います」

とにかく大切なのは「話す、すなわちアウトプットを重視すること」だと佐藤先生。声に出して表現することで、言語を使いこなす力や語彙力に厚みがついていく。それが英語の壁をつくらない良策なのである。

(高橋盛男=インタビュー・文 中林 香=撮影)