「一生住む」という前提は簡単に崩れる
「うちは一生ここに住むから、売却することなど考える必要はない」。そう思う人もいるだろう。しかし、35年という一般的な住宅ローンの返済期間を踏まえれば、その間に何が起こるかは誰にもわからない。
筆者が相談を受けた別のケースを紹介しよう。夫が親から土地を贈与され、その土地に夫名義で注文住宅を建てた。住宅ローンも夫単独で借りた。当然、家を建てた当時はそこで家族と長く暮らすつもりだった。ところが、建築から7年ほどで夫婦は離婚した。妻と子どもはそのまま家に住み続け、夫は家を出た。住宅ローンの返済は夫が続け、養育費も別に負担している。さらにその後、夫が継いだ家業の経営状況が悪化した。もし住宅ローンの返済まで難しくなれば、家の売却を考えざるを得ない。
ところが、その家が建っている土地は市街化調整区域だった。市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域と位置づけられ、開発行為や一定の建築行為には許可が必要になる。土地ごとの状況や自治体の基準によって扱いは異なるが、買い手が将来の建て替えや土地利用を考える場合には、許可条件の確認が必要になる。
「自分たちは一生住むから問題ない」と考えて建てた家でも、離婚、転職、減収、介護、事業不振など、人生の変化によって売却する必要が生じることはある。この相談者も、7年後に自分がその家を出て、経営する事業の悪化を心配しながら住宅ローンを払い続けることになるとは、家を建てたときには想像していなかっただろう。
この土地、自分で金を払ってでも買う?
もちろん、親から土地をもらえること自体が悪いわけではない。駅に近く、通勤や通学にも便利で、買い物や医療にも困らない。災害リスクも許容でき、将来も住宅地として一定の需要が見込める。そんな土地を取得費なしで使えるのであれば、マイホーム取得では大きなメリットになる。
問題は「タダでもらえる土地だから」という理由だけで、そこに数千万円の建物を固定してしまうことだ。住宅ローンを組むとき、多くの人が「この返済額なら払っていけるか」を考える。しかし、親の土地に注文住宅を建てるなら、もうひとつ考えておきたい。事情が変わり、そこに住めなくなったとき、家と土地に買い手が付くだろうか、ということだ。
家を建てる前に、一度「親からもらえる土地」という条件を忘れて、考えてみてほしい。「もし、この土地が普通に売りに出ていたら、自分のお金を払ってでも買うだろうか」と。答えが「買いたい」なら、そこに家を建てる合理性は十分にある。一方、「タダでもらえるから使うだけで、自分のお金なら買わない」と思う土地なら、その上に4000万円、4500万円という家を建てることには慎重になったほうがいい。
一生そこに住めるかどうかは、誰にもわからない。だからこそ、土地代がゼロかどうかだけではなく、「必要になったときに売れる土地か」という出口まで考えてから、家を建てる必要があるのだ。
群馬県前橋市出身。明治大学法学部卒業。大学卒業後、IT企業でエンジニアとして15年間勤務し、金融システムや物流システムの開発に従事。その後、国内生命保険会社へ法人コンサルティング営業職に転身し、2009年に独立系ファイナンシャルプランナーとして開業。以後、個人向けマネー相談や企業向けコンサルティングの他、企業型確定拠出年金導入企業向け従業員研修の講師などに携わる。2020年より金融経済ライターとしても経済メディア、メガバンクオウンドメディアなどに実務経験を活かした記事を寄稿。著書『60分でわかる!住宅ローン超入門』(技術評論社)。日本FP協会認定CFP。