日本では子宮頸がんが減っていない理由
そのほか、イギリス――特にスコットランドも子宮頸がん予防はうまくいっています。オーストラリアと同様に、組織的ながん検診に加えて、異常があった場合の追跡と治療、そして高いHPVワクチン接種率が功を奏しているのです。2024年のスコットランドの研究によると、12〜13歳でHPVワクチンを受けた女性から、浸潤性子宮頸がんは1例も確認されませんでした。14〜22歳で3回接種した女性も、未接種女性に比べて有意に子宮頸がんの罹患率が低かったのです(※5)。
このように子宮頸がんが激減している国があるのに、なぜ日本では減っていないのでしょうか。一つは、子宮頸がん検診の参加率が低いからです。日本では市区町村が健康増進法に基づいて住民検診を行っていますが、2年ごとの子宮頸がん検診を受診した人は43.6%です。
そして、HPVワクチンの接種率が低いことも大きな理由です。日本では、2010年から子宮頸がんワクチンという名前で公費助成での接種が始まり、当初は1回目の接種率が70〜80%に達しました。そして、2013年4月には定期接種になったのです。定期接種として無料で受けられるのは、小学校6年生〜高校1年生相当の女性です。
ところが、定期接種となった直後、子宮頸がんワクチンの接種後に表れた「疼痛」や「運動障害」など多様な症状が、衝撃的な映像や症状説明とともに副反応ではないかと大々的に報道されるようになりました。もちろん、因果関係は明らかではありませんでしたが、報道のインパクトは大きく、社会的な関心が急速に高まったのです。
「積極的勧奨の差し控え」は何だったか
2013年6月には、事態を重く見た厚生労働省が「子宮頸がんワクチンの積極的勧奨の差し控え」を通知しました。つまり、定期接種は続き、希望者は接種できますが、積極的には勧めないという意味です。通常、定期接種の対象年齢になると個別に届くはずの接種券やお知らせが送られなくなりました。
当時、現場では次のようなことが起こっていました。HPVワクチンをお子さんに接種させたいと思った保護者が、保健所に接種券を取りに行ったところ、職員が「国が勧めていない危険なワクチンをお嬢さんに受けさせるんですか」と翻意を促したり、接種券を渡さなかったりしたのです。こういった経験をした人は、驚くことに私の患者さんや友人に複数いましたし、SNSでも見かけました。
こうして世間では子宮頸がんワクチンに対するバッシングが激化。もちろん、保護者が「新しいワクチンのために体調不良が起こったらと思うと不安だ」「原因がわかるまでは接種しないようにしよう」などと考えるのは自然なことです。しかし、当時から子宮頸がんワクチン(今のHPVワクチン)はすでに海外で広く接種され、安全性についての大規模なデータも蓄積していました。日本でも、2013年6月の専門家会議で、定期接種を中止するほどリスクが高いと判断されてはいなかったのです。
そのため、たくさんの医師や研究者、医療従事者、ジャーナリストたちが医学的研究や科学的事実をもとにワクチンの接種推奨の再開を呼びかけましたが、それにもまた世間から激しい非難や感情的な強い言葉がぶつけられました。ワクチンや製薬会社、医師を糾弾する投稿を見ていた人たちは不安に駆られて、娘に打たせたくないと思ったことでしょう。こうして非常に有用な子宮頸がんワクチンの接種希望者は激減し、接種率が急落してしまったのです。


