落ち着いた態度で「普通の心配」を示す

親御さんが子どもの自傷の傷あとを見つけたとき、驚きや不安でとり乱したり、問い詰めたりしがちです。

松本俊彦『希死念慮と自傷のことがよくわかる本』(大和出版)
松本俊彦『希死念慮と自傷のことがよくわかる本』(大和出版)

しかし、こうした対応も本人をさらに追い詰めてしまいます。

大切なのは、落ち着いた態度で示す「普通の心配」です。「どうしたの?」「なにかあった?」と、静かに声をかけ、本人が次の言葉をつなぐ余地を残します。

たとえ答えが返ってこなくても「無理に話さなくてもいいけど、気になっているよ」と伝えることが、関係をつないでくれます。

理由を問いただしたくなるかもしれませんが、本人自身も自分の気持ちをうまく言語化できず、わかりやすい説明ができないことも多いものです。原因を特定するより、「どれくらいつらかったのか」「どんな気持ちだったのか」に目を向けましょう。「つらかったんだね」「ひとりで抱えてきたんだね」という言葉で、理解を示すことが大切です。

次に、関係を壊さず本人を支える8つの対応を解説します。

関係を壊さず本人を支える8つの対応

Point1 「行動」より「苦痛」に目を向ける

自傷や「死にたい」という言葉に直面すると、言動を止めることに意識が向いてしまいます。大事なのは、その背景にある本人の苦しさです。本人になにがあったのか、どのようなつらさを抱えているのかに目を向けましょう。本人が自分のつらさについて話せるように促すことが大切です。

Point2 怒りをぶつけない、説教をしない

「どうしてそんなことをするの」「いいかげんにしなさい」。こうした言葉は、本人には「気持ちを否定された」と受けとられやすいものです。こういうやりとりが続くと、「親に話しても無駄」という感覚が強まり、苦しさを自分の内に閉じ込めるようになります。その結果、自傷や希死念慮が強まることがあるので注意してください。

Point3 言動に一喜一憂しない

「もう大丈夫」と言ったかと思えば、次の日には「死にたい」と言う。周囲は本人の一貫性のない言動に振りまわされてしまうものです。しかし、叱責や過干渉は、本人の苦痛を深め、自傷の悪化につながることがあります。言動の揺れに一喜一憂せず、本人の行動や状態を見守っていきましょう。

Point4 自責しすぎない

「自分の育て方がわるかったのではないか」と感じる親御さんもいるでしょう。強すぎる自責は、表情や言葉を通して子どもに伝わります。本人は、「自分のせいで親を苦しめている」という新たな心の負担を抱えることになり、ますます本心を打ち明けられなくなってしまいます。支える側が自分を責めすぎないことも、重要な支援のひとつです。

Point5 挑発的な言葉に反応しない

「親のせいでこうなった」「自分なんていないほうがいい」。こうした言葉に対して、つい言い返したくなることもあるでしょう。しかし、売り言葉に買い言葉のやりとりは、親子関係を傷つけるだけです。子どもの苦しみやつらさを理解し、認め、反論しないこと。正しさを争うことではなく、話ができる関係を保つことが大切です。

Point6 “I”メッセージで伝える

気持ちを伝えるときは、相手を責める言い方ではなく、自分の思いとして伝えましょう。「どうしてそんなことをするの」ではなく、「“私は”心配しているよ」。「やめなさい」ではなく、「“私は”あなたが傷つくのを見たくない」。「私は」を主語にして話す(“I”メッセージ)ことで、相手を否定せずに気持ちを届けることができます。

Point7 安易な励まし・説得はしない

「がんばれば大丈夫」「もっと前向きに考えて」こうした励ましや説得は、逆効果になることがあります。自分のつらさを理解してもらえず、軽く扱われたように感じ、かえって孤立感を強めてしまう子もいます。その結果、「次から親に話しても意味がない」と思うように。必要なのは、本人の気持ちに寄り添うことです。

Point8 沈黙も「関係の一部」になる

本人にどうしたのか尋ねても、なにも話してくれないと、拒絶されたように感じるかもしれません。しかし、言葉にできないこと自体が、本人の状態を表現していることもあります。本人が口をつぐんだときは、すぐに答えを求めず、待つ。「ここにいていい」という空気をつくることが、親子関係を保つ秘訣です。

8つのポイントはどれも、「関係を壊さないための基本」です。こうした小さいことの積み重ねが、「ここなら話せる」という安心をつくります。