命に関わるHUS(溶血性尿毒症症候群)
腸管出血性大腸菌に感染すると、通常は数日の潜伏期間を経て、水のような下痢や激しい腹痛が起こり、その後、血便が出ることがあります。発熱はそれほど目立たないこともあります。
大体の人はこうした腸炎だけで回復しますが、症状が出た人の6~7%程度では、発症から数日~2週間ほどの間にHUS(溶血性尿毒症症候群)などの重い合併症を起こします。HUSになると、赤血球が壊れ、血小板が減り、腎臓の働きが悪くなって、尿が出にくくなったり、むくんだりします。治療は水分や全身状態を慎重に管理することが中心で、腎不全が重い場合には透析が必要になることもあります。特に子どもや高齢者では重症化しやすいため注意が必要です。
私自身、研修医だった頃にHUSを起こした子どもを診療したことがあります。ご家族の中で、その子だけが合併症を起こし、腎不全から腹膜透析が必要になり、長期の入院治療を余儀なくされました。幸いにも命は助かりましたが、ご家族の不安は計り知れないものでした。
なお、2011年の事件以降、食品衛生法が改正されて、大規模な重症食中毒は減りました。しかし、2024年にもハンバーグ店で、加熱が不十分な肉による食中毒が発生しています。「生ハンバーグ」は非常に危険なものだと覚えておいてください。
鶏肉とカンピロバクターのリスク
次に鶏肉です。鹿児島や宮崎には鶏肉を「鳥刺し」として生食する文化があり、他地域でも同様の鶏肉料理を提供している店があるため、食べても大丈夫だと思っている人は少なくないでしょう。
しかし、生の鶏肉を食べると、カンピロバクターによって食中毒(カンピロバクター腸炎)になるリスクがあります。市販の鶏肉を調査すると、高確率でカンピロバクターが検出されますが、鶏自身がカンピロバクターを保菌していてもほとんど症状が出ないため、見分けがつかないのです。
そうしてカンピロバクターに感染すると、2〜5日の潜伏期間を経て、高熱や激しい腹痛、下痢、血便が起こります。私が受け持った患者さんも、体をくの字に曲げて歩けないほどの腹痛と高熱に苦しみ、入院が必要なほどでした。
鹿児島と宮崎は、鶏肉の食文化を背景に独自の衛生基準・衛生管理体制を設けています。しかし、牛の生食用食肉のような国の規格基準は鶏肉にはなく、国内で流通する鶏肉は基本的に加熱用です。


