脳科学者の茂木健一郎先生が子どもの「創造力・芸術センス」を育む方法について教えます。
ピアノを弾く子ども
写真=iStock.com/Satoshi-K
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2次元の知識を3次元の体験で上書き

 幼稚園に入る時期になると、「差分(ギャップ)」から受ける刺激に変化が見られます。乳幼児期の「はじめて」という単純な驚きから、「知っていたことと違う」などのより複雑で深い驚きによっても刺激を受けるのです。

 たとえば、図鑑で見た動物や昆虫と実物との違い。スマホやタブレットで見た動画と現実との違い。2次元の知識が3次元の現実で上書きされる体験は大きな刺激です。もっと知りたい、体験したいと脳が〝本気モード〞になるチャンスです。幼稚園に通うようになった子には、ぜひホンモノに触れさせてください。

 集団に入ると、目立ってくるのが個性です。友だちの輪にすぐ入る子もいれば、1人でじっと虫を観察している子もいます。脳科学的にいえば、4〜6歳は「コミュニケーション型」「数理オタク型」などにタイプが分かれ、才能が開花しはじめる時期です。個性が強いと「偏り」に見えることもあります。友だちの輪から離れて、何かに没頭する姿を見て不安になるかもしれません。

 しかし、成長のペースも、才能の形も、一人ひとり違って当然。「うちの子、天才かな」と楽観的に受けとめましょう。

 大切なのは、親がいつも上機嫌でいること。子どもの脳では神経細胞「ミラーニューロン」が親の不安や焦りをすぐさま映し出します。「うちの子は大丈夫」と笑顔でいれば、子どもは安心して個性を発揮できるのです。

ホンモノが脳を本気にさせる「生演奏・スポーツ観戦」

 コンサートホールで聴く生の音楽は、録音とは別ものです。音が空間を満たし、床が振動する――五感が刺激されると、脳は「ホンモノ」を認識します。立体的な体験が子どもの創造力を高めるのです。 

 スポーツも同じ。スタジアムで見る選手の動きや歓声、芝生の匂いなど、画面からは伝わらない空気感は記憶に深く刻まれます。プロの試合でなくても構いません。高校野球の予選でも、一生懸命プレーする姿は感動を与えてくれるものです。

 ホンモノ体験から「自分もやってみたい」と言い出したらしめたもの。「まだ早い」と意欲の芽を摘まずにそっと背中を押してください。

 親が一緒に楽しむことも大切です。親が感動している姿から、子どもは「これは特別な体験なんだ」と感じとり、記憶に残る体験へと昇華します。

多様性との出合い「昆虫観察」

 昆虫ほど、多様性が豊かなものはありません。チョウだけでも数万種あり、色も形も飛び方も違います。「こんなに種類がある」と驚くだけで、子どもの想像力は刺激されます。

 親子で昆虫採集ができなければ、公園でアリの行列を追いかけるだけでも十分。「アリさんはなんでここで曲がったのかな」と一緒に考えたり、目の前を飛ぶチョウが図鑑で見た色と違うと気づいたりするだけで、子どもの脳は動きはじめます。

 昆虫博物館などの標本を見れば、実物の大きさや質感に目を見張るでしょう。子どもが「気持ちわるい」と言っても否定せず、「よく見るときれいな色をしてるね」と別の視点を提示してやってください。

 僕もチョウに夢中になって、小学生で日本鱗翅りんし学会に入りました。何に夢中になるかは本人にもわかりません。親はさまざまな世界への扉を開けてやるしかないのです。