実子と同じ親子関係になる「特別養子縁組」
社会的に児童虐待への認知が高まり、2007年には熊本市の慈恵病院に「こうのとりのゆりかご(通称赤ちゃんポスト)」が設置され、今年になって2例目の「ベビーバスケット(通称赤ちゃんポスト)が東京都に作られたというのに、なぜ、こんな「不幸」をいまだ日本社会は続けているのだろう。
この問題に、児童相談所の職員であった当時からずっと胸を痛め、何とかしようと奔走しているのが萬屋さんだ。
「『愛知方式』で重要なのが、赤ちゃんと養親さんとが『特別養子縁組』を行うということです。しかも、児童相談所という公的機関が、産む側と子を望む側の双方に関わって進めていくということが、とても大きいのです」
ちなみに養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つがある。さまざまな要件の違いがあるが、決定的に異なるのは戸籍の表記だ。「普通養子縁組」では実親の名前が記載され、続柄は「養子」と記載されるが、「特別養子縁組」では実親の名前が記載されず、続柄は「長男(長女)」と記載され、養親と養子の間に実の親子と同じ親子関係が成立する。また、原則として、「特別養子縁組」は養親側から離縁の申し立てはできない。
さらに、「養育里親」という里親の種別があるが、これは社会的養護の一つという位置付けだ。社会的養護とは虐待や病気などで親が育てられない子どもを、親に代わって社会が育てることを言い、一般に乳児院や児童養護施設における「施設養育」か、養育里親による「家庭養育」に分けられる。養育里親の場合、里親と里子の間に戸籍上の関係は発生しない。
「子どもが幸せになれる道がある」
「愛知方式」ではあえて実親による引き取りが見込めない場合、「養育里親」や「普通養子縁組」ではなく、「特別養子縁組」を行うが、それは子どもの福祉を最大限に考えてのことだ。
「養育里親なら18歳、あるいは20歳になれば委託という措置が解除されて関係が切れますが、特別養子縁組は戸籍上の親子であり、一生続く関係です。子どもにとって、これほど安心できるものはないと思います」
「愛知方式」で赤ちゃんを望む夫婦は、まず、あらかじめ児相に養子里親として登録する必要がある。児相に予期しない妊娠で育てることができない女性の相談が入ったところで、児相が養子里親候補とのマッチングを図る。養子里親は出産前から無事生まれることを願い見守り、出産後生母の気持ちが変わらなければ産まれた赤ちゃんをそのまま産院から引き取り、「わが子」として養育に当たる。家庭裁判所に特別養子縁組の手続きを行い、法的に親子となる。
この「愛知方式」は、「産んだ女性にとっても、養親にとっても、生まれた子どもにとっても、“三方良し”のいい制度」であることを、萬屋さんは何十回となく、身をもって経験してきた。
「予期しない妊娠、育てることができないと女性たちは暗い気持ちで相談に来ますが、子どもが幸せになれる道があるという説明を聞くと、皆さん、明るい顔になります。『生むまでが私の役目、身体に気をつけて過ごします。産んだら、お願いします』と。子どもが欲しい夫婦にとってみれば、待ち望んだわが子になる赤ちゃんが自分たちのもとにようやくやってくるわけですから、この上なく幸せな気持ちになれます。何よりも生まれてきた赤ちゃんは安全安心な大人と愛着関係を作ることができます」