最初のケースは、1本の電話から
萬屋さんが体験した最初のケースは、児相にかかってきた1本の電話からだった。
「『妊娠して困っている人がいる』という、他人ごとのような電話でしたが、実の娘のことでした。で、会社で妻子ある男性と交際して妊娠、中絶が不可能な時期に入っていた。男は妊娠を伝えたら知らん顔。娘さんが親に相談できたから、本当によかったんです。妊娠を誰にも知られたくない、親には絶対に知られたくないという方多いです。養親は矢満田さんの担当地区の養子縁組希望の里親。女性は予定日に無事出産し、養親さんが産院に2〜3日通って育児トレーニングを受け、赤ちゃんを引き取りました。女性は赤ちゃんの名前は養親さんにつけていただきたいと言い、養親に赤ちゃんを託しました」
まさに、“三方良し”をその身で実感した瞬間だった。
望まぬ妊娠をした女性を「殺人者」にすることなく、産まれた赤ちゃんは愛情を持って育ててくれる人の腕の中で育つことができる。念願のわが子が自分たちのもとにやってきた大きな喜びに包まれ、赤ちゃんは寒空に放置されることなく、慈しんで育てられる。それが、いかに赤ちゃんにとって大切なことなのか。
「愛知方式」の大きな意義はまさに、今でも変わらずに健在だ。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)などがある。
NPO法人CAPNA常務理事。大学で教育社会学を専攻。1973年、愛知県職員(社会福祉職)となる。退職後の2011年より愛知教育大学教職大学院特任教授。愛知県里親委託推進委員等、数々の社会的養護下の子どもたちのための活動に関わっている。
