赤ちゃんは乳児院ではなく里親に
萬屋さんが注視しているのは、新生児の委託先が「里親」であるか否かということだ。親が育てられない赤ちゃんを生まれた病院から乳児院という「施設」に送るのではなく、里親という「家庭」へと託すべきだというのが萬屋さんの確固とした考えであり、それは「愛知方式」が一貫して行ってきたことでもある。
「愛知方式」とは、予期しない妊娠をした女性に対し、児童相談所が出産前から相談に乗り、出産後養子に出す意思が変わらないときに、児相にあらかじめ登録している子どもを望む夫婦のもとへ、赤ちゃんが生まれるや、「特別養子縁組」を前提に里親委託を行うというものだ。児童相談所が「特別養子縁組」の仲介を行うという、愛知県が独自に作り上げたシステムゆえ、「愛知方式」と呼ばれている。
そこには新生児にとって、何が最優先されるのかという譲れない理念がある。
「産みの親との縁が薄かった子どもに、乳児院で『交代で、お世話をする人』ではなく、いつもそばにいてくれる『親』や『家族』を用意すべきなのです。赤ちゃんには、それが絶対に必要なんです。産んだ人が親としての責任を果たせないのなら、その人に代わる恒久的、かつ安心安全な親を与える必要があります。可能にするのが『赤ちゃん縁組』であり、『愛知方式』なのです」
虐待死で最も多い、「0歳0カ月0日」
虐待で子どもが亡くなるケースで最も多いのが、0歳であることをご存じだろうか。「こども家庭庁」が2025年9月に発表したデータによれば、2023年度に虐待で亡くなった子どもは65人。心中や心中未遂を除いた数では0歳児が7割を占め、統計を取り始めた05年度から、23年度が最も高い割合となった。
しかも、生後24時間に満たない「0日児」は16人、08年度に次いで、過去2番目に多かったことが判明した。
「0歳0カ月0日」で亡くなる赤ちゃんが多いのは、虐待死の統計を取り始めてから変わらない事実だ。そして加害者で最も多いのが、実母であるということも。望まぬ妊娠・予期しない妊娠の果ての乳児殺が、令和の今になっても後を絶たない。予期せぬ妊娠を知ったときから、彼女たちはどれほどの孤独と絶望の苦しみの中にいることか。
その挙げ句、生を受けてから24時間すら生きることができない赤ちゃんの存在という“悲劇”が、令和の今になっても続いている。しかも、減少どころか増加傾向にあることを統計は示している。
2025年11月、那覇地裁。前年12月、自宅敷地内で出産したばかりの女の赤ちゃんを、自分の胸に押し付け殺害した31歳の女性に、懲役4年の実刑判決が下された。2024年11月、静岡地裁沼津支部。2023年に出産直後の子どもを殺害、海岸に遺棄した25歳の女性に懲役5年の実刑判決が言い渡された。