11代将軍・家斉「余は子づくりに秀でておる」
このところNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では、自信家で厳格な松平定信(井上祐貴)が、文武と倹約の奨励で知られる寛政の改革を推し進める様子が頻繁に描かれている。
第36回「鸚鵡のけりは鴨」(9月21日放送)では、側用人に取り立てられた本多忠籌(矢島健一)を自邸に呼びつけ、次のように恫喝した。「そなたが賄賂を受けとっておるという報告があった。そなたは黒ごまむすびの会よりの私の信友であり腹心。範たるべき本多の者がなんたることか」。
続いて、恋川春町(岡倉天音)が書いた『鸚鵡返文武二道』など、蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)が刊行し、定信の政治を揶揄する内容の黄表紙が取り締まられるのだが、上に挙げた場面には、風紀の乱れを許さない定信の姿勢がよく表されていた。そういう姿勢は、第35回「間違凧文武二道」(9月14日放送)で流された、次の場面からも伝わった。
腹心である水野為長(園田祥太)からの報告書で、まだ正室を娶っていない将軍家斉(城桧吏)が、大奥の女中とのあいだに子をもうけたと知って衝撃を受けた定信は、あわてて登城した。「大事な務めを成しえ、安堵している」と暢気な家斉に定信は、「上様には、仁政を為すため学を修める務めもまたございます。聞くところによりますと、大奥に入り浸り、栗山博士のご講義もご不調にてお休みがちとのことで」と諭した。
だが、家斉にはまるで響かない。「それぞれ秀でたことをすればよいと思うのじゃ。余は子づくりに秀でておるし、そなたは学問や政に秀でておる。それぞれ務めればそれでよいではないか」。それが返答だった。
そして、この将軍は今後も終始こんな感じだったから、そもそも定信と話がかみ合うはずもなかった。